第1話 高貴な身分
文字数 1,297文字
ミラノ・レム・シエルクーンは10歳であった。
シエルクーン魔導王国の少年王である。
鬱屈とした王宮生活を送っている彼にとって、『お出かけ』をするのはとても楽しみなことであった。
『お出かけ』とはお忍びで市中に出ることである。
その『お出かけ』に宦官・ノリスがついてきてしまったことに少々うんざりしていたが、それでも市中に出ているときは、いつもの鬱屈とした表情がやわらいでいた。
やはり、10歳の少年なのである。
ミラノ・レム・シエルクーンが街を歩いていると、彼と同じくらいの年齢の少女が近寄ってきた。
少女は、ミラノが着ている服に興味を持ったようである。
「すごい綺麗なお着物!」
ミラノにとってはカジュアルな服のつもりであったが、粗末な服を着たこの街の少女には、カジュアルどころの代物ではないだろう。
「これこれ、近寄るな、この方は高貴な身分の方であるぞ」
宦官・ノリスが言う。
ミラノは「馬鹿なのか?」と思う。
せっかくお忍びで出歩いているというのに、『高貴な身分の方』だとか言わないでもらいたい。
とはいえ、どう見ても『高貴な身分の方』にしか見えない。
服装だけでなく、彼の一挙手一投足が『高貴』そのものにしか見えないからだ。
やはり当然ながら、この辺りの10歳くらいの少年少女とは異なるのだ。
とそこへ、ボサボサの髪に腹の出た小太りの男子がやってきた。
マルコ・デル・デソートである。
「ああ、うちの子が申し訳ございません」
マルコは、宦官・ノリスに謝った。
うちの子と言うが、もちろん彼の子供ではない。
ウキグモ・ジョサ・レイクが亡くなったため、マルコはいま冒険者養成所の仕事を手伝っているのだ。
ミラノ・レム・シエルクーンは「別に良いのだ、謝る必要はない」と言った。
マルコは「あ、ああ……」と薄らぼんやりとした声を出して、ミラノを見つめた。
アラタ・アル・シエルナに少し似ていると思ったからだ。
「アラタに似ているような……」
マルコは思わず声に出して言った。
「アラタ?」
ミラノは聞き返したが、ここはアル・シエルナ自治領なのである。
当然、自分を見て「アラタに似ている」と思う人間もいるかもしれない。
異母兄弟なだけあり、確かに少しアラタ・アル・シエルナに似ているのである。
しかし彼は、例の『貧民窟掃討作戦』を実行した張本人なのでもあるが。
「あ、いえ何でもないです。申し訳ございませんでした」
そう言って、マルコ・デル・デソートは立ち去っていった。
「陛下、やはりこの辺りを歩くときは〔気配遮断〕をした方がよろしいかと」
「ノリス、それではつまらん。僕は普通に歩きたい」
ミラノは言った。
この辺りの住人は、もしかしたら国王の顔など知らぬかもしれない。
いずれにしても、もし彼を王と知り危害を加えようとする者がいたとしても、その思惑がかなうことはそうそうないだろう。
ミラノ・レム・シエルクーンは、魔導王国の歴代の王の中でも、とび抜けて強い魔導力を持っているからだ。
シエルクーン魔導王国の少年王である。
鬱屈とした王宮生活を送っている彼にとって、『お出かけ』をするのはとても楽しみなことであった。
『お出かけ』とはお忍びで市中に出ることである。
その『お出かけ』に宦官・ノリスがついてきてしまったことに少々うんざりしていたが、それでも市中に出ているときは、いつもの鬱屈とした表情がやわらいでいた。
やはり、10歳の少年なのである。
ミラノ・レム・シエルクーンが街を歩いていると、彼と同じくらいの年齢の少女が近寄ってきた。
少女は、ミラノが着ている服に興味を持ったようである。
「すごい綺麗なお着物!」
ミラノにとってはカジュアルな服のつもりであったが、粗末な服を着たこの街の少女には、カジュアルどころの代物ではないだろう。
「これこれ、近寄るな、この方は高貴な身分の方であるぞ」
宦官・ノリスが言う。
ミラノは「馬鹿なのか?」と思う。
せっかくお忍びで出歩いているというのに、『高貴な身分の方』だとか言わないでもらいたい。
とはいえ、どう見ても『高貴な身分の方』にしか見えない。
服装だけでなく、彼の一挙手一投足が『高貴』そのものにしか見えないからだ。
やはり当然ながら、この辺りの10歳くらいの少年少女とは異なるのだ。
とそこへ、ボサボサの髪に腹の出た小太りの男子がやってきた。
マルコ・デル・デソートである。
「ああ、うちの子が申し訳ございません」
マルコは、宦官・ノリスに謝った。
うちの子と言うが、もちろん彼の子供ではない。
ウキグモ・ジョサ・レイクが亡くなったため、マルコはいま冒険者養成所の仕事を手伝っているのだ。
ミラノ・レム・シエルクーンは「別に良いのだ、謝る必要はない」と言った。
マルコは「あ、ああ……」と薄らぼんやりとした声を出して、ミラノを見つめた。
アラタ・アル・シエルナに少し似ていると思ったからだ。
「アラタに似ているような……」
マルコは思わず声に出して言った。
「アラタ?」
ミラノは聞き返したが、ここはアル・シエルナ自治領なのである。
当然、自分を見て「アラタに似ている」と思う人間もいるかもしれない。
異母兄弟なだけあり、確かに少しアラタ・アル・シエルナに似ているのである。
しかし彼は、例の『貧民窟掃討作戦』を実行した張本人なのでもあるが。
「あ、いえ何でもないです。申し訳ございませんでした」
そう言って、マルコ・デル・デソートは立ち去っていった。
「陛下、やはりこの辺りを歩くときは〔気配遮断〕をした方がよろしいかと」
「ノリス、それではつまらん。僕は普通に歩きたい」
ミラノは言った。
この辺りの住人は、もしかしたら国王の顔など知らぬかもしれない。
いずれにしても、もし彼を王と知り危害を加えようとする者がいたとしても、その思惑がかなうことはそうそうないだろう。
ミラノ・レム・シエルクーンは、魔導王国の歴代の王の中でも、とび抜けて強い魔導力を持っているからだ。