第9話 魔導書の精
文字数 1,442文字
彼らが従兄弟であるらしいことを説明したのは、ベアー・サンジ・ドルザであった。
ナユタとアラタは初対面であったし、互いにその存在を知らなかったのである。
アラタ・アル・シエルナについては、彼は冒険者養成所の親方に育てられたため、母方の親戚がいることを知らないのは致し方ないことであったかもしれない。
ナユタがアラタのことをよく知らなかったのは、単に彼がそういったことに無頓着であるからだろう。
「気をつけた方が良いかもしれぬ」
と言ったのは、ナユタ・エルリカ・アルであった。
ナユタの両親も何者かによって殺害されているのである。
それは一年くらい前のことであった。以来、彼はドラゴと旅を続けている。
命を狙われているかもしれない。ナユタはそのことを説明した。
「いったい何者の仕業でしょうか?」
「それが、まったく分からぬのだ」
アラタが心配したのは、それが父王の手によるものではないか? ということであった。
父王、つまりシエルクーン魔導王国の先王は、数多くの女に子を産ませては、その女を殺していった。アラタの母親もそのうちの一人である。
シエルクーンの現国王である少年王は、その先王を『キグルイ』と呼んだ。
シエルクーン王家では、魔導の力を保つため親族間で婚姻を結ぶことが多くあった。
血が濃くなるためであろうか、しばしば『キグルイ』と呼ばれる猟奇的な精神構造を持つ者が生まれた。
しかしその先王もまた、少年王によって数ヶ月ほど前に殺害されているのである。
少年王からしてみたら、先王から暗殺されそうになったため返り討ちにしたまでなのであるが。
彼らがそんな会話を交わしていると、そこへ現れたのは魔導書の精・クロヒメであった。
クロヒメもドラゴと同様に猫の姿をしている。見た目は黒猫である。
アラタのことを『ご主人様 』と呼ぶ魔導書の精だ。
「ドラゴではありませんか!」
「クロヒメか! いったいどこへ行っていたのだ。もう1000年ぶりくらいではなかろうか」
「あ、ええと、寝ていました」
「寝てた? 1000年もの間をか?」
「ええ、魔導書の中でひと眠りするつもりが、1000年近く寝てしまっていたようなのです。それで起きたらそこに『ご主人様 』がいらっしゃったのです」
クロヒメはそう言ってアラタを見た。アラタとクロヒメは先日、魔道具屋で出会ったのである。
「クロヒメよ、お前はこの少年を『ご主人様 』と呼ぶのか?」
「はい。いけませんか?」
「いや、お前が決めたことならオレがどうこう言えることじゃないが」
ドラゴはアラタ・アル・シエルナをよく見た。
「よく見れば、この少年、アル殿にそっくりであるな」
「はい。アル様にそっくりなのです。私も最初、アル様だと思ったくらいなのです」
ドラゴとクロヒメが言うアルという人物は、ナユタとアラタの先祖にあたる者だ。
そして『魔導書の精』という存在を創り出したのは、そのアルという人物なのである。
1000年程前、ドラゴとクロヒメはアルという男によって創り出されたのである。
以降ずっと、ドラゴはアル家の当主に仕えてきたし、クロヒメはその当時、アルを『ご主人様 』と呼んでいたのである。
「それにしても、お前、いなくなったと思ったら1000年も寝てたのか!」
「ええ、それが急にものすごく眠くなりまして……」
ナユタとアラタは初対面であったし、互いにその存在を知らなかったのである。
アラタ・アル・シエルナについては、彼は冒険者養成所の親方に育てられたため、母方の親戚がいることを知らないのは致し方ないことであったかもしれない。
ナユタがアラタのことをよく知らなかったのは、単に彼がそういったことに無頓着であるからだろう。
「気をつけた方が良いかもしれぬ」
と言ったのは、ナユタ・エルリカ・アルであった。
ナユタの両親も何者かによって殺害されているのである。
それは一年くらい前のことであった。以来、彼はドラゴと旅を続けている。
命を狙われているかもしれない。ナユタはそのことを説明した。
「いったい何者の仕業でしょうか?」
「それが、まったく分からぬのだ」
アラタが心配したのは、それが父王の手によるものではないか? ということであった。
父王、つまりシエルクーン魔導王国の先王は、数多くの女に子を産ませては、その女を殺していった。アラタの母親もそのうちの一人である。
シエルクーンの現国王である少年王は、その先王を『キグルイ』と呼んだ。
シエルクーン王家では、魔導の力を保つため親族間で婚姻を結ぶことが多くあった。
血が濃くなるためであろうか、しばしば『キグルイ』と呼ばれる猟奇的な精神構造を持つ者が生まれた。
しかしその先王もまた、少年王によって数ヶ月ほど前に殺害されているのである。
少年王からしてみたら、先王から暗殺されそうになったため返り討ちにしたまでなのであるが。
彼らがそんな会話を交わしていると、そこへ現れたのは魔導書の精・クロヒメであった。
クロヒメもドラゴと同様に猫の姿をしている。見た目は黒猫である。
アラタのことを『
「ドラゴではありませんか!」
「クロヒメか! いったいどこへ行っていたのだ。もう1000年ぶりくらいではなかろうか」
「あ、ええと、寝ていました」
「寝てた? 1000年もの間をか?」
「ええ、魔導書の中でひと眠りするつもりが、1000年近く寝てしまっていたようなのです。それで起きたらそこに『
クロヒメはそう言ってアラタを見た。アラタとクロヒメは先日、魔道具屋で出会ったのである。
「クロヒメよ、お前はこの少年を『
「はい。いけませんか?」
「いや、お前が決めたことならオレがどうこう言えることじゃないが」
ドラゴはアラタ・アル・シエルナをよく見た。
「よく見れば、この少年、アル殿にそっくりであるな」
「はい。アル様にそっくりなのです。私も最初、アル様だと思ったくらいなのです」
ドラゴとクロヒメが言うアルという人物は、ナユタとアラタの先祖にあたる者だ。
そして『魔導書の精』という存在を創り出したのは、そのアルという人物なのである。
1000年程前、ドラゴとクロヒメはアルという男によって創り出されたのである。
以降ずっと、ドラゴはアル家の当主に仕えてきたし、クロヒメはその当時、アルを『
「それにしても、お前、いなくなったと思ったら1000年も寝てたのか!」
「ええ、それが急にものすごく眠くなりまして……」