第16話 法王国王宮・襲撃事件
文字数 1,408文字
その日、ダルシア法王国はひどい雨であった。
法王国国王であるウイト・ウェルギリウス・ダルシアは、法王国王宮・王座の間にいた。
この法王国の国王は、代々、白魔導士がつとめることになっている。この熊のような大柄の男は、この国随一の白魔導士である。
また、法王国の国王は『ルナドート教の法王』も兼任している。
隣国・シエルクーン魔導王国とは互いに、自分達こそがルナドート教の正統なる信徒であるとの『見解の相違』があるため、シエルクーン魔導王国の者達は、法王国の国王が『ルナドート教の法王』を名乗ることを認めてはいない。
当の主神〈エスタ・ノヴァ・ルナドート〉は、そんなことはどちらでも良いと考えているのであるが。
ともかくも、その日はひどい雨であった。
熊のような大柄の男、この国王はよく日に焼けた、本来は陽気な男である。
しかし、その日は王宮の大窓に打ち付ける雨粒を、物憂げに見つめていた。
「何者か!」
叫んだのは、法王国王宮・王座の間・大広間に控えていた〈剣聖〉フタバ・ディア・レイクであった。元剣聖の娘である。
何者か!――〈剣聖〉フタバの声が王座の間・大広間に響き渡る。
白魔導の結界が幾重にも張られている法王国王宮・王座の間に、三体の黒い影が現れたのである。
黒い影はなにか魔導を詠唱する。
彼らは黒魔導士であった。
――空間がまるで海のようにうねった。
空間は歪み、いくつもの大きな波と化した『空間だったもの』がウイト・ウェルギリウス・ダルシアに襲い掛かる。
〈剣聖〉フタバはその歪む空間の中、タンッと床を蹴ると跳躍し、大きな波と化した『空間だったもの』を器用にかわし、両手に持った二本の剣で黒魔導士の一人を真っ二つに斬った。
残った黒魔導士二人が、さらに魔導を詠唱する。雨で薄暗い王座の間・大広間にぬらりと漆黒に輝く二重の魔法陣が広がる。
それと同時にウイト・ウェルギリウス・ダルシアは白魔導を唱えた。
空間の、海のようなうねりが止まった。
法王ウイトが時間を止めたのである。
本来は、時空律令というダルシアの法令により、時間を制御することは禁止されているのだが――
ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは止まった時間の中、二人の黒魔導士にゆっくりと近づき、魔導の力で彼らの息の根を止めた。
法王ウイトにとって、時間を止めることも、人間の息の根を止めることもたいした労力ではない。
しかし、自ら止めたとはいえ、止まった時間の中で動くことは彼の体力を相当に奪った。
――やがて時間は動き始める。
大きな波と化した『空間だったもの』は既に消えている。
薄暗い王座の間・大広間に、真っ二つに斬られた魔導士の死体が一体、息の根を止められた魔導士の死体が二体、ころがっていた。
法王様! とフタバ・ディア・レイクが叫ぶ。
「この者達が何者か調べよ」
法王ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは、大広間にいて何もできなかった上級魔導士達に命じると、そのままその場にうずくまり倒れてしまった。
フタバ・ディア・レイクは、もう一度「法王様!」と叫び、法王ウイトに近寄り「誰ぞ、法王様を癒しの間へ」と言った。
幾重にも張られた白魔導の結界である。厳重に守りを固めたこの王座の間・大広間に不審者が現れるとは誰も考えていなかったのである。
法王国国王であるウイト・ウェルギリウス・ダルシアは、法王国王宮・王座の間にいた。
この法王国の国王は、代々、白魔導士がつとめることになっている。この熊のような大柄の男は、この国随一の白魔導士である。
また、法王国の国王は『ルナドート教の法王』も兼任している。
隣国・シエルクーン魔導王国とは互いに、自分達こそがルナドート教の正統なる信徒であるとの『見解の相違』があるため、シエルクーン魔導王国の者達は、法王国の国王が『ルナドート教の法王』を名乗ることを認めてはいない。
当の主神〈エスタ・ノヴァ・ルナドート〉は、そんなことはどちらでも良いと考えているのであるが。
ともかくも、その日はひどい雨であった。
熊のような大柄の男、この国王はよく日に焼けた、本来は陽気な男である。
しかし、その日は王宮の大窓に打ち付ける雨粒を、物憂げに見つめていた。
「何者か!」
叫んだのは、法王国王宮・王座の間・大広間に控えていた〈剣聖〉フタバ・ディア・レイクであった。元剣聖の娘である。
何者か!――〈剣聖〉フタバの声が王座の間・大広間に響き渡る。
白魔導の結界が幾重にも張られている法王国王宮・王座の間に、三体の黒い影が現れたのである。
黒い影はなにか魔導を詠唱する。
彼らは黒魔導士であった。
――空間がまるで海のようにうねった。
空間は歪み、いくつもの大きな波と化した『空間だったもの』がウイト・ウェルギリウス・ダルシアに襲い掛かる。
〈剣聖〉フタバはその歪む空間の中、タンッと床を蹴ると跳躍し、大きな波と化した『空間だったもの』を器用にかわし、両手に持った二本の剣で黒魔導士の一人を真っ二つに斬った。
残った黒魔導士二人が、さらに魔導を詠唱する。雨で薄暗い王座の間・大広間にぬらりと漆黒に輝く二重の魔法陣が広がる。
それと同時にウイト・ウェルギリウス・ダルシアは白魔導を唱えた。
空間の、海のようなうねりが止まった。
法王ウイトが時間を止めたのである。
本来は、時空律令というダルシアの法令により、時間を制御することは禁止されているのだが――
ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは止まった時間の中、二人の黒魔導士にゆっくりと近づき、魔導の力で彼らの息の根を止めた。
法王ウイトにとって、時間を止めることも、人間の息の根を止めることもたいした労力ではない。
しかし、自ら止めたとはいえ、止まった時間の中で動くことは彼の体力を相当に奪った。
――やがて時間は動き始める。
大きな波と化した『空間だったもの』は既に消えている。
薄暗い王座の間・大広間に、真っ二つに斬られた魔導士の死体が一体、息の根を止められた魔導士の死体が二体、ころがっていた。
法王様! とフタバ・ディア・レイクが叫ぶ。
「この者達が何者か調べよ」
法王ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは、大広間にいて何もできなかった上級魔導士達に命じると、そのままその場にうずくまり倒れてしまった。
フタバ・ディア・レイクは、もう一度「法王様!」と叫び、法王ウイトに近寄り「誰ぞ、法王様を癒しの間へ」と言った。
幾重にも張られた白魔導の結界である。厳重に守りを固めたこの王座の間・大広間に不審者が現れるとは誰も考えていなかったのである。