第27話 黄金の召喚獣
文字数 1,375文字
元剣聖、ウキグモ・ジョサ・レイクは、自らの首を斬った。
しかし、娘である〈剣聖〉フタバ・ディア・レイクは特に動揺した様子も見せなかった。
真っ黒な血が床を塗らしている。
甘い香りが未だ漂っている。
フタバはその匂いに顔をしかめた。
ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは冒険者養成所の医務官を呼んだ。
「こ、これは......」
医務官はウキグモの変わり果てた姿を見て、言葉を失う。
「......フタバ様......フタバ様......これは何事でございますか?」
医務官がなんとか言葉をしぼり出す。
「父上は自ら首を斬り落とされた」
「自ら?」
医務官が怪訝な顔をする。
「そうだ、父上は自死なされた」
「自死......何故でございますか?」
「逆に問いたい。父上の最近の様子はどうであったのか?」
医務官は考え込むが、元剣聖・ウキグモが自ら死を選ぶ兆候がこの最近にあったと思えない。
この部屋の中に重い沈黙が漂う。
すると、
ヒヨコの鳴き声であった。
目の前の惨状に甚 だ似つかわしくないが、ヒヨコの鳴き声がしたのである。
いや、フタバはそのヒヨコを知っている。
そのヒヨコは、彼女の父であるウキグモ・ジョサ・レイクの召喚獣であるからだ。
ヒヨコは、ウキグモの死骸の裏から現れ、ぴよともう一度鳴いた。
「(〈剣聖〉フタバ・ディア・レイクよ、ウキグモのこの惨状は何だ?)」
召喚獣がフタバに語りかけた。
「マーマ・マリア様、惨状ではございます。しかし何だと問われましても」
マーマ・マリアとはこのヒヨコの本来の名前である。
召喚獣であるといっても、この者は高位の存在である。
それゆえ、フタバはマリアに様とつけて呼ぶ。
「(人間というものは、自分の肉親が死んだとき嘆き悲しむものではないのか?)」
「通常はそうかもしれません。そうでないかもしれません。私には分かりません。私は感情を動かさぬよう育てられましたゆえ」
「(そうか、人間とは不思議なものだな。あの少年、アラタ・アル・シエルナの方がよほどウキグモと親子であったように見えもしたが)」
確かにそうであったかもな、とフタバ・ディア・レイクは思った。
しかし、それは感傷にふけってのものではない。
単に客観的に見て、そうであったかもと思っただけである。
「しかし、マーマ・マリア様、マーマ・マリア様こそ、なぜここに現れたのですか?」
「(現れてはいけぬのかな?)」
「いえ、この世界はマーマ・マリア様が本来存在していらっしゃる世界ではございません。
父上が亡くなったとはいえ、マリア様が姿をお現しになられる必要もございませぬでしょう?」
「(私がウキグモ・ジョサ・レイクに別れを告げに来てはいけぬかな?)」
「……」
フタバは口ごもった。
彼女は、召喚獣とは、こんなにも人間的な感情を有するものであったかと思ったのだ。
ヒヨコの姿をしていたマーマ・マリアは本来の彼女の姿に変化した。
その姿は2メートルを超す大きな怪鳥、人間には怪鳥と形容するしかないものであった。
やや暗いこの屋内で、彼女の羽根はかすかに黄金色に光ったように見えた。
しかし、娘である〈剣聖〉フタバ・ディア・レイクは特に動揺した様子も見せなかった。
真っ黒な血が床を塗らしている。
甘い香りが未だ漂っている。
フタバはその匂いに顔をしかめた。
ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは冒険者養成所の医務官を呼んだ。
「こ、これは......」
医務官はウキグモの変わり果てた姿を見て、言葉を失う。
「......フタバ様......フタバ様......これは何事でございますか?」
医務官がなんとか言葉をしぼり出す。
「父上は自ら首を斬り落とされた」
「自ら?」
医務官が怪訝な顔をする。
「そうだ、父上は自死なされた」
「自死......何故でございますか?」
「逆に問いたい。父上の最近の様子はどうであったのか?」
医務官は考え込むが、元剣聖・ウキグモが自ら死を選ぶ兆候がこの最近にあったと思えない。
この部屋の中に重い沈黙が漂う。
すると、
ぴよ
? という奇妙な声が聞こえた。ヒヨコの鳴き声であった。
目の前の惨状に
いや、フタバはそのヒヨコを知っている。
そのヒヨコは、彼女の父であるウキグモ・ジョサ・レイクの召喚獣であるからだ。
ヒヨコは、ウキグモの死骸の裏から現れ、ぴよともう一度鳴いた。
「(〈剣聖〉フタバ・ディア・レイクよ、ウキグモのこの惨状は何だ?)」
召喚獣がフタバに語りかけた。
「マーマ・マリア様、惨状ではございます。しかし何だと問われましても」
マーマ・マリアとはこのヒヨコの本来の名前である。
召喚獣であるといっても、この者は高位の存在である。
それゆえ、フタバはマリアに様とつけて呼ぶ。
「(人間というものは、自分の肉親が死んだとき嘆き悲しむものではないのか?)」
「通常はそうかもしれません。そうでないかもしれません。私には分かりません。私は感情を動かさぬよう育てられましたゆえ」
「(そうか、人間とは不思議なものだな。あの少年、アラタ・アル・シエルナの方がよほどウキグモと親子であったように見えもしたが)」
確かにそうであったかもな、とフタバ・ディア・レイクは思った。
しかし、それは感傷にふけってのものではない。
単に客観的に見て、そうであったかもと思っただけである。
「しかし、マーマ・マリア様、マーマ・マリア様こそ、なぜここに現れたのですか?」
「(現れてはいけぬのかな?)」
「いえ、この世界はマーマ・マリア様が本来存在していらっしゃる世界ではございません。
父上が亡くなったとはいえ、マリア様が姿をお現しになられる必要もございませぬでしょう?」
「(私がウキグモ・ジョサ・レイクに別れを告げに来てはいけぬかな?)」
「……」
フタバは口ごもった。
彼女は、召喚獣とは、こんなにも人間的な感情を有するものであったかと思ったのだ。
ヒヨコの姿をしていたマーマ・マリアは本来の彼女の姿に変化した。
その姿は2メートルを超す大きな怪鳥、人間には怪鳥と形容するしかないものであった。
やや暗いこの屋内で、彼女の羽根はかすかに黄金色に光ったように見えた。