第35話 別れ

文字数 900文字

 父が亡くなりました。

 4月に入ってからは特に、落ち着かない日々が続いた。父の体調が日に日に悪化していたから。

「いつ、逝ってもおかしくないです」

 そう主治医に言われ1ヶ月ほど経った。就寝時が特に嫌だった。夜中に危篤の連絡が入ったら……と毎晩思いながら横になった。もちろん直ぐには寝られない。良くないと分かっていながら、スマホ検索。しばらく経つと目が疲れて寝落ち。そんな毎日だった。

 明日は私の誕生日。その日の朝、弟から連絡がきた。

「親父が危篤らしい。俺は今、病院に向かっている途中だ」

声が震えていた。

「分かった。頼むね」

「おうっ」

自分の鼓動が聴こえた。耳が痛い。それから30分経ったか経たないか。また、電話が。

「亡くなった。親父、亡くなってた。間に合わんかった……」

言い終わりの言葉は涙声になった。その声につられたのか、涙が溢れ出し

「分かった。お疲れさま。ありがとう」

そう言うのが精一杯だった。電話を切った後に耳がキーンと鳴った。もう1ヶ月も前から分かっていたことなのに、鼓動が早くなっている気がした。後から聞いた話だが、弟は会社から駆けつけ、母は弟嫁に連れられて父の病室に入った。まだ温かい身体だったらしい。主治医が抱き抱え、霊安室まで運ぶストレッチャーに乗せてくれた。この行為に母は

「先生が1人で乗せてくれたんだよ。普通は看護師さんたちの仕事だろうに。先生がやってくれるなんて……」

といたく感激して話した。特別扱いされたと思ったみたいだ。

 弟の一報が入った時、夫に伝えた。

「俺も行った方がいいの?」

ためらうことなく、そう訊いた。一瞬、悲しくなった。関心が無いように聞こえた。(でも、後になってそうではないことがわかるのだが)夫を同行させたかったのには訳がある。

『親が亡くなり冷静な判断が出来ない状態で車の運転をしない方がいいよ』
と言う友人からのアドバイスを覚えていた。

 私たちが実家に着いた時、父の亡骸はリビングに置かれていた。簡易的な祭壇が置かれ、線香が焚かれていた。『家に帰してあげたい』母の希望でこうなった。

 父が他界したことは残念ですが、末期の状態を知っていただけに、安堵感もありました。





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