第24話 瀬戸際 ②

文字数 909文字

 父を病院から連れ帰った後のお話になります。

 点滴を受けた後の父は、体力の回復はどうあれ精神的には効果があった気がした。まともに食べられなくなって、そろそろ1ヶ月以上になる。ここ1週間ほどは飲む量も少なくなり、体重は数週間で10㎏以上減った。父は袖をまくりながら

「こんなに細くなってしもた。ハハハ……」

呆れたとも諦めとも取れる半笑い。声は力無く、独り言のようにも聞こえた。「ふぅ〜」と肩で息をしたあと

「ワシは点滴が打ちたくて病院に行った訳やない。入院させてくれるかどうかを知りたかったんや。今日行ってみて、入院出来ると分かって安心した」

 私は父を自宅で看取るつもりでいた。それは父も望んでいることだと思っていた。だが、父の容体が日々悪くなるのを見て、この先の介護をどうやっていこうかと考えあぐねていた。病院の付き添いで実家に2日泊まるだけでも、疲労困憊の私に終わりが見えない介護が務まるとは思えなかった。また非協力的な弟嫁の存在があるために、ヘルパーさんをお願いすることも出来ない。もし父が寝たきりになったら、誰が下の世話をする?食事の介助は?誰も気付かない間に逝ってしまったら?その不安を母に言ってみた。

「できん……」

 分かりきった返事だったが、母が自分の状況を把握してくれるだけは助かった。今の母の状態で『できる』などと言われたら厄介の何物でもない。嫁の言いなりばかりで、対応の遅い弟には嫌気がさしていた。だからと言って、私1人では支えきれない。下手をすれば私の方が先に逝ってしまう……では、どうすれば……そんな私を父は感じていたに違いない。介護を始めてからの父の口癖は

「悪いのう。ariayuに。いつも悪いのう」

父は病院から帰った後、決めたようだった。

「いよいよ何も口に出来なくなったら、ワシを入院させてくれ。もう家には帰れんけど、そうしてほしい」

 私の態度が父をそうさせたのかもしれない。私は父の決断をどこかで待っていたのかもしれない。それでも不安だらけの自宅介護に比べたらずっといい。

「ありがとう。ちゃんと看取れなくてごめんなさい」

泣きながら謝る私に父は何度も頷いていた。

 父の入院が、今生の別れになります。






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み