第15話 手術をする意味

文字数 987文字

 高齢者の治療はいつまで必要ですか?迷っているなら止めさせてもいいですか?

 母の怒りを父はどうすることも出来ない。ただただ母の機嫌を伺いながら、半ば母の言いなりに生活を送っている父。事情を知らない人が見れば、母の態度は傲慢だ。

「コレ、テレビ台の中に仕舞っておいて」

手渡された物を言われた通りに入れようとする父。

「違う!そこじゃない。あー、雑な入れ方して。私はキチッとしたのが好きなんだよ!」

 私なら『じゃあ、自分でやれば』とキレてしまうだろう。だが父は何も言わない。女王様と家来のようだ。まだ私が家に居た頃は仲が良さそうに見えていた二人。こんな末期を見せられるなんて夢にも思わなかった。

 母が去年カテーテル手術をしてから診察が数回あった。担当医は

「もう1回、間を空けずに手術をすれば、ずいぶん癌が減るんだけどなぁ。手術したくない?」

と診察の度に訊いたが母は

「手術はもう……」

と蚊の鳴くような声で答えた。担当医は『年齢のことも考えると分かるけどね』と理解してくれたが、2カ月後の診察で癌がどうなっているかが見たいと次回はCT検査になった。手術せず、病気に寄り添う治療をしていく為にも必要らしかった。

 担当医に手術を断った母は自宅に戻り

「やっぱり、手術した方がいいかなぁ?どう思う?」

と私に訊いた。どう思うって……。私は随分前から母に何度も言ったつもりだ。

『手術すれば、しばらく自由な時間が無くなるし、手術したところで元気に歩けるわけじゃないよ。残された時間のことを考えてみて。まだやりたいことがあるの?』

と。考えに考えた上で出した結論だと思っていた。それなのに母は揺れている。

「手術しないと先生に見捨てられるかなぁと思って」

空いた口が塞がらない。母にどう答えたらいいか、誰か教えて。そして父にも手術を受けたいと言い始めた。

「お母さんが、そう言うんだからワシはもう少し生かしてやりたいと思う」

母に迎合しているのか、今までの償いのつもりがそうさせるのか。また1から考え直すのか?もう付き合いきれない。手術になれば弟家族と話をしなければならない。手伝わない弟嫁にも頭を下げなくてはならない。どうして私が同居する弟家族に気遣うような構図になっているの?私だけが介護の深みにハマっている気がした。

 手術に反対なわけではありません。母に納得のいくアドバイスが出来ない自分に嫌気がさします。
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