第11話 新年の話じゃないけれど

文字数 903文字

あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。(松の内が終わった皆さま、ご容赦願います)

 今年の正月は複雑な気持ちで迎えた。父が存在する最後の正月になるかもしれないと思ったからだ。昨年の秋、父の前立腺癌は治療の手立てが無くなり、経過観察となった。とりあえず痛みは無い。遠方の総合病院から近所の病院へ転院し、血液検査と問診のみの通院をしている。それでも父は病院へ行くのを『止める』とは言わない。『残された時間を別の事に使えばいいのに』と感じてしまう私。

 三月で90歳。やりたいことはやり尽くしたか?漠然と今を生きるだけなのか?昨年の今ごろは『妻より先に逝けない』と息巻いていた。それは自分無しでは母の生活が成り立たないと感じていたから。私も同感し、父に発破をかけ続けた。だが今となっては自分のことさえ持て余す。

RRRRR……♪

「ariayu?ちょっと待って、今、お爺さんに替わるから」

お爺さんとは父のことで、電話してきたのは母。
母曰く父の様子がおかしいと。どうおかしいのかは告げられず、母がそそくさと電話を父に差し出す会話が聞こえる。

「あー、もしもし。どうも(メシ)が旨くなくってさー。食欲が湧かなくってね」
とか
「あー、もしもし。全然眠れんじゃんね」

 治療が出来なくなってから、父は日に日に口数、食欲、睡眠が減り、母は見るに見かねて、私の所へ助け舟を求めてくるようになった。私も週に数回のことだからと応対しているが、毎度毎度悩みは同じで、最近は父の『あー、もしもし』を聞くと軽い嫌悪感が出るようになった。酷い娘。仕方ない事なのに、聞き流せない。父を励ます言葉も尽きて、とうとう

「ねぇ、会社勤めの頃は、態度大きかったよね?あの勢いは何処に行っちゃったの?もっとどっしりと構えていてよ。人は誰でも最期は死ぬの。順番なんだから……」

とんでもない言い方をしてしまった。もう、やぶれかぶれ。父は

「そりゃ、そうだの〜。ハハハ……」

と力無い笑いが返ってきたが、父の本心は如何に。こんな娘で、ごめん。でも、最期までキチンと見守るからと心の中で謝った。

 新年の話じゃないですよね。本年も素直に綴りたいと思っています。



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