第66話 臨終

文字数 864文字

 もうお気付きかもしれませんが、数日前、母が亡くなりました。

 肝性脳症の昏睡状態に陥ってから3日目の午後、私は母の寝息の横で夕寝をしていた。

RRRRR……

電話は訪問医師。

「お母さん、変わりはないですか?」

受話器を持ち「はい」と言いかけ慌てた。明らかに夕寝する前の呼吸と違い、それは吸っているだけ?の音しか出ていないものになっていた。

「昼間の呼吸と違います。先生、来てください」

 電話を切り、2階にいる弟嫁を呼んだ。私の判断が間違っていないかを確認するためと、この状態が息を引き取る間際なら弟に連絡をしてもらわなければならないと思ったからだ。

「弟に連絡入れた方がいいんじゃない?」

そう言ってみた。

「いや、まだ……あと少しで終業時間になるし……」

 10分ほどで訪問医師が到着。脈や目袋の下辺りを触り、聴診器を当て反応を見ていた。少し遅れて訪問看護師も到着。

「弟さん呼ばれましたか?」

 訪問医師が到着したのが午後6時45分頃。電話の時よりも更に母の呼吸は弱くなる。吸うだけしか聞こえない呼吸は、数秒止まり、その後再開するというのを3度ほど繰り返した。

「もう、心臓は止まっています」

それでも息をしているように見えたのは、痙攣のようなものだと教えてくれた。午後7時10分。弟は向かっていたが間に合わなかった。

「弟さんが来るまで待ちましょう」

程なく弟が帰宅。

「では、今をもってお亡くなりと致します。午後7時31分」

 涙は出なかった。

 医師は死亡届を書くために一旦帰り、看護師が残って清拭、洗髪、入れ歯の装着、着替えなどを経験談を交えながら進めてくれた。亡くなった直後の魂は、亡骸の上辺りで自分を見つめているらしい。聞いた事がある話だったが、看護師から聞くと真実味が増す。数分後には葬儀屋が到着。母を寝かす布団が決められておらず、私が普段寝ていた布団を使った。布団の用意すら直ぐに出来ない弟嫁の対応は、どれだけ母に無関心だったかを象徴しているように思えた。

 『さてさて』は、今回をもって完結と致します。読者の皆さま、ありがとうございました。

 
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