第37話 家族葬とは

文字数 855文字

 父が亡くなった当日なのに、感傷に浸るどころではありませんでした。

 急かされるように葬儀内容が決められていった。家族葬の定義は通夜も告別式も親族のみで行うということ。そして近所の人が訪れても、焼香は遠慮願うということ。祭壇のグレードを決めた後は、遺影選び。母の希望で50代の写真になった。もう何年も老人の父を見ていたから、若い頃の顔を忘れかけていた。ふと自分の遺影は何歳くらいが良いか考えた。アラ還の今なら40代の写真がいい。50代で病気を患ってから、加速度的に老けた気がするから。

 ひと通り葬儀の段取りを決め、親族に連絡を入れた。母方の親族は同じ地方に住んでいるので、亡くなった当日に駆けつけてくれた人もいた。父方は以前の投稿でも書いた通り遠方なので、出席の期待はしていなかったが、父の兄の長男夫婦が半日かけて通夜も告別式も来てくれるという返事をくれた。母は思いがけない対応に感涙していた。

 通夜当日の夕方。自宅に安置されていた父を葬儀場に運ぶ際、ちょうどその時間に父方の親族が到着し、棺を一緒に担いでもらい霊柩車に乗せることが出来た。父が呼んだのかと思えるようなタイミングだった。霊柩車が自宅から離れるときに(わら)を焚き、父のご飯茶碗を割る。なぜそうするのかを業者に尋ねたら
『藁の煙で家を隠し、茶碗を割って、もうここは帰る場所ではない、父の食べるご飯は無いと知らせる為のもの』だと聞いた。
夫が茶碗を割る役を任され、霊柩車の出発と同時に割ってと言われていたが、なかなか割れず、三度地面に打ち付けてようやく割れた頃には、霊柩車の姿は無かった。

 霊柩車より少し遅れて葬儀場に着いたら、ご近所が数人来てくださっていて、挨拶だけ受け、お帰りいただいた。わざわざ来ていただいたのに、焼香も無しなんて……なんだか申し訳ない気持ちになった。

 通夜の晩。我が家4人と遠方の親族2人は近所のビジネスホテルをとって翌日の告別式に備えた。

 ここ数年、家族でホテルに泊まることなど無かったので、不謹慎にも少し嬉しい気持ちになりました。

 

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