第53話 タイミング

文字数 930文字

 母には親しい友人が3人います。

 総合病院に入院させた時、医師から

『場合によっては、命を落とすような処置になります』

と言われ、慌てて母の妹たちを呼んだ。幸い今生の別れにはならなかったが、叔母たちには感謝された。退院直後は、しっかり話す事も出来たので母に

「お父さんが亡くなった事を友人に伝えた方がいいんじゃない?」

 と、それとなく言った。父が亡くなり四十九日法要が終わったら知らせると言っていたが、その前に母が入院してしまったので。もちろん事実だが、私の本心は別。話せるうちに親しい人と話してほしかった。

 2人の友人とは、電話で近況報告や他愛も無い事も交えて楽しそうにお喋りしていた。もう1人も電話で済ませるつもりだったが、急遽お見舞いに来てくれた。同席するのは気が引けたので、私は別室に移動。何を話していたかは丸聞こえだったが。この方は持病に鬱を持っておられ、服薬もされていると母から聞いている。来訪時はその片鱗もなく、楽しくお喋りされていた。聞くとはなしに聞いた会話に母の存在を頼りにしている言葉がいくつか。私は母の事で手一杯なのだが、急にその方が心配になった。

『この方に母の死をどうやって伝えたらいいんだろう』

訪問看護師に訊ねると

『鬱状態がどの程度のものか分からないので安易に答えられない』

と言われ、医師の友人が多いママ友にも聞いたが同様の返事だった。それでもママ友のアドバイスが私の不安を少し解消してくれた答えになった。それは

『敢えてこちらから知らせず、先方から連絡が来た時に伝える』

という事。自ら波を立てず、流れに任せた方がいいというシンプルな答えは妙に腑に落ちた。

 私は介護を始めてから、正しい選択が出し辛くなっているように感じている。先日は友人に

「今はお母さんの事を優先すべきでしょ」

と諭された。もちろん今の私は出来る限りの時間を費やしていると思ってはいるが、介護が無かった場合の事を考えると、今月も予定はいくつもある。簡単にキャンセル出来るものもあれば、後々に響くものも。私が介護に対して常々

と言うのは、介護まみれで窒息しないようにと暗示をかける自己防衛の意味でもある。

 気遣ってくれる友人がいる事に、母も私も感謝しなければなりません。



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