第31話 一転

文字数 939文字

 父が入院して4日が経ちました。

 入院の前日、父は確かに瀕死の状態だった……と思う。弟嫁から電話が入った。

「お義父さんが退院出来ると病院から連絡がありました」

えっ?

すぐには理解出来なかった。私は数日前今生の別れをしたつもりだった。気持ちがざわついた。言葉では言い表せない。どうしてこうなったのかを弟嫁から聞いた。

『出された食事は普通に食べられるし、自力歩行もリハビリをすれば出来そう』だからと。

入院前に医師から食事の硬さをどのくらいにするかを訊かれた。医師には

『五分粥が無理なら、ペースト状かなぁ』

と提案されたが、何となくイメージが良くなくて刻み食と五分粥よりも柔らかめを頼んだ。医師と話している間も父は話さず、しんどそうだった人が1週間で退院してくるという。いったい、どんな治療を受けたのか。

 納得出来ない私は弟嫁との電話の後、ナースステーションへ電話をかけた。看護師さんの説明は弟嫁のものと何も変わらなかったので

「先生からは、いつ心臓が止まってもおかしくないって言われたんですけど……」

と私が退院に納得出来ない理由を言うと、しばらく待たされ、その答えには触れず『食べられるし、歩ける』の繰り返し。これ以上は(らち)が明かないと思い電話を切った。

 連絡から2日後、父は弟嫁に付き添われて退院した。私が付き添う方が良かったかもしれないが、迎えに行く気力が出なかった。私は入院させた時点で父に対する介護に区切りを付けたというか、精魂尽き果ててしまっていた。

 父が帰宅した夕方、実家へ電話を入れると父が電話口に出た。私はとりあえず

「退院おめでとう」

と言った。『本当に大丈夫?』と言いかけてやめた。気持ちは複雑。自宅での介護の事でまた弟夫婦とやり合うかもしれない……病院に居た方が父にとっては楽だったのではないか……自宅に居れば、母に頼られる場面もあるだろうに……

 母は入院前と変わらないと言った。では何故退院させたのか?次の診察予定は1ヶ月後だと言う。それまでに何かあれば来院させてくれとのこと。自宅で看取れと言う事なのか?病院に対する不信感ばかりが湧いてきた。

 今のところ実家からは連絡がありません。明日は母の病院の付き添いで実家に行きます。ここまできた以上、もう一度父に会いたいです。
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