第56話 中治りー②

文字数 841文字

 退院から今までの緊張の糸が切れた気がしました。

 以前の投稿でも触れた事があるが、母は

内弁慶。他人様の前で何も言えない。だから総合病院の担当医は慣れたもので、挨拶の視線は母に、その他諸々の受け答えはほぼ私に向いていた。訪問看護師の前でも例外にあらず。

「大丈夫です。もう、治ってきたような……」

なんて蚊の鳴くような声で仰った。だが今回来てくれた訪問看護師さんには通用しなかった。

「Nさん(母の名)、ほんと〜?アタシの前だからって我慢してな〜い?でさ、アタシが帰ったら気持ち悪〜いなんて言い出すんじゃないの〜?」

ちゃんと見透かされていても

「はい、大丈夫です」

さすが肝入り。それで訪問看護師が帰宅後、どうなったか。5分もしないうちに、ゲェッ!またまた私はたまらず言った。

「なんで、今なの?さっき治ったって言ってたじゃん!(怒)

 仕方なく、顔に洗面器を差し出し、しばらく様子を見たが、止まる気配はなく……
いろいろな思いがよぎった。

『喉におにぎりを詰めた最期だったね』

『ここまで、大事に、慎重に介護してきたのに、本来の死亡原因は病気じゃなかったね』

なんて、なんて、陰で言われそうだなどと。これまでの介護騒動で母の妹たちには敬語を使われるほど感謝されまくっている私。その私が出したおにぎりで母を逝かせることになれば、後味が悪すぎるだろう。とは言え、訪問看護師が帰った今、私には為す術がなく、私が悪いんじゃない。なんて思い始めたら、あれこれ考えるのが面倒くさくなり……

「ごめん、疲れた、寝る!」

と母のベッドの横でふて寝してしまった。『寝ている間に急変されたらどうしよう』なんて気の小さい事を思いながら。なんと無責任な介護者か。母の妹たちからは呆れられること必至。仕方あるまい。本来の私はそこまでの人間だ。疲れた身体の昼寝は格別だった。1時間ほどして目が覚め、母の腹部を凝視。動いてる……
いつもの呼吸に戻り、その後起きてからも喉の詰まりを訴えなかった。

 なんと人騒がせな母と私。以後気をつけます。
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