第18話 2月の父

文字数 959文字

 去年の暮れから父の食欲は随分衰えました。

 正月明けに父の診察があった。今の担当医は言葉こそ体調を伺うものの、何処か投げやりだ。父が

「食欲が無くて、美味しく食べられんのですわ〜。途中でゲーッといっちゃいそうで……」

と訴えても

「それは癌が転移しているせいだと思う。吐きそうになる手前で食べるのをやめなさい」

 私でも言えそうなアドバイス。私は医者ではないが、担当医が言っていることは、もっともだと思う。ただもう少し優しく言ってもらえないだろうか?治療をして欲しくて受診しているわけではない。老い先短いのは重々承知。今の父に必要なのは、不安な気持ちを少しでも拭い去ることなのだと思う。以前行っていた街中の総合病院に比べ、今の病院は患者の数が格段に少ない。だから患者の気持ちに寄り添うくらいのゆとりがあるのでは?と思えてならない。以前の担当医は若かったけれど、父に対する気遣いは充分感じられた。比較をしてはいけない。診てもらえるだけで有難いと思わねば。頭では分かっているが、私は今の担当医が気に入らない。

 次の診察は3ヶ月後になったが、診察から10日も経たないうちに父から電話。

「あーもしもし。あんまり食べられんから点滴を打ってもらいたいんだけど、病院に連れて行ってくれんか」

 確かに食欲が無くなったら点滴すればいいと言ってもらっていたので、病院に連絡した。この時点では弟嫁に連れていってもらうつもりでいた。だが点滴の前に受診が必要で、経過が分かっている私が居た方が医師が話しやすいから来てくれと看護師に言われた。私の移動に時間がかかるため、点滴を翌日に予約。私は点滴のために高速を飛ばし、実家に前泊することになった。

 今後、点滴だけなら弟嫁が行ってくれるというので、担当医の顔繋ぎのために診察に同行してもらった。点滴の中身は水分補給。期待していた栄養点滴ではなかった。栄養だったら入院が必要だと言う。

「今、入院したら、もう会えないかも。最期のつもりでじゃないと……」

と看護師に言われた。

 腹の足しにならない点滴は2時間半かかった。父は満足したか?私の心配をよそに父が言った。

「こんなに長い時間ベットに縛られて、えらいわ。もう、やらんでいい」

正しい選択だと思う。

 この先、わがままなことがあっても、受け入れていこうと思います。
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