第44話 翻弄

文字数 971文字

 素直に喜ぶべきことも、過去のわだかまりで芳しくないと、そうもいかないようです。

 母の退院を目前に控えた日、自宅での介護が無理だと嫁に言われ、断腸の思いで母を施設に預けても良いと弟に言った。頑なに母を嫌う嫁を恨んだ。私がもう少し健康だったら、怒りの勢いで母を引き取っていたかもしれない。私の軽率な行動で、私が倒れるような二次被害?だけは避けなければいけない。決断した夜、母に施設の話をどう言おうかと考え始めたら、眠れなくなり、涙が溢れた。

 弟たちが結婚し、同居が始まって1〜2年ほどで母と嫁は折り合いが悪くなった。それから変わる気配のないまま今に至る。母が嫁の話をする時に必ず言う言葉がある。

「Aさんが喋ってくれんのよ。返事もしない」

嫁をを頑なにしているのは何か、未だに分からない。いつだったか

『どうして両親の用事をやってくれなかったの?』

と訊いた事があった。すると

「私の用事がある時に限って、用を頼むんですよ。それがまたか、またかと重なって……タイミングが悪いと言うか……」

ピンポイントで用事を頼むはずはないと思う。何回も頼んで断られた両親は、ほとんど嫁に頼まなくなった。特に父はプライドが高かったので、母が『嫁に頼もう』と言っても頑なに嫌がっていたようだ。結局、嫁に頼む事を弟や私がすることになった。私は表向きには病院の付き添いだが、半分は雑事で、実家へ行くと休む暇なく働いて帰宅というのが、ここ何年も続いている。そんな歳月の中で母は生きてきた。父に気遣い、嫁にも気遣いながら。

「私は今までやり過ぎるくらいやってきた。尽くしてきたのに……」(母の口癖)

 わがまま三昧の言動、怒りが収まらず物に当たり、父が母の世話をするのが当然ような態度などは、積年の我慢の裏返し。晩年の母の態度は尽くした日々の見返りを求めているかのようだ。

 母をわがままモンスターにした張本人の1人でもある嫁には、介護という和解をしてほしかった。私はつくづく我が家に相応しくない嫁をもらった弟も恨んだ。

 怒りが頂点に達していた夜、弟からは電話がきた。

「Aさん(嫁)が介護してもいいって言ってくれた」

なんだよ、今さら。この怒りの矛先を何処にぶつければいいのかと思うと同時に涙が溢れてきた。

 弟夫婦のいい加減さにいつまで振り回されるのかと思うと、全てを投げ出したくなります。
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