第63話 ここまできた

文字数 819文字

 自宅介護を始めてから8週目の土曜日です。

 母の容体は週明けから一気に悪化し始めた。肝性脳症になり、意識レベルが日毎に落ちていくのが分かった。それでも金曜日までは、声をかければ気付いているようで僅かながらだが、アイコンタクトが出来た。そして身体を左右にゴロゴロと動かす事も。

 今日はどうか。枕の上で頭を左右に動かし、膝を曲げたり伸ばしたりのみの動き。目は常に開いているが、瞬きが無く、見えているような感じがしない。口は常に開いている為、舌の奥に瘡蓋(かさぶた)のような物が見えるが、取り除く事は出来ない。呼吸は割と安定していて、時おり深呼吸が加わる。脈拍は90台。血圧は朝の時点で113/54。ここ4日ほど飲食は全く無いが、排尿は毎日ある。今日も2度パットを替えた。身体の水分を上手く尿として出しているようで、腹水や浮腫は無い。

 訪問医師が臨時で来てくれた。母の容体を見て

「上手に過ごせているようだね」

と言ってくれた。

 最初の契約通り、延命措置はせず、痛みだけを取り除き、なるべく意識を残しながら最期まで。少しずつ指示を受けながら今日まで来た。ホームドクターではない医師に任せて良かったのかとの思いもあったが、とても誠実な対応に的確な指示だと直ぐに分かったので、その不安は解消された。母にも私にも幸運な事だった。

 明日は母の下の妹が見舞いに来る予定だ。ここまで頑張ったのだから、会わせてあげたい。もう認識は出来ないかもしれないが、何よりも生きていることが重要なのだ。あと2日で8月になる。欲を言えば、7月まではもたないと言われた7月を最後まで生き抜いてほしい。私の身体は介護で疲弊し、クタクタではあるが、何となくそう思う。

 訪問医師が帰り際に

「今、コロナが流行っています。介護疲れで免疫が落ちていると思うので、この先、人が集まる時には、くれぐれも気をつけてください」とアドバイスをくれた。
 
 NクリニックのM先生。本当にいつもありがとうございます。

 

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