第57話 中治りではないかも

文字数 851文字

 話すのもままならなかった母が、よく喋るようになりました。 

 終末期の介護は期間限定、短期決戦のはずが……母の場合は例外だった……ようだ。医者が余命を短く言うのは、よく聞く話。そう考えれば納得もするが、母の場合は医者も驚く復活劇。

 訪問医師に初めて会った時、総合病院からのカルテや画像を見ながら

「今の状態では1週間、もつかどうかです」

と言われた。
総合病院では、そんなにハッキリとした言われ方はしていなかったので、その重大さをひとりで受け止めるのがしんどかった。帰宅後、弟夫婦に伝えた時には、涙が出た。そんな状態の母だと思っていたのに……

 介護生活3週目ともなると訪問医師は

「不思議だ。身体に黄疸も出ているし、タール便で貧血もあるのに血圧は正常。血液検査したいくらいだけど、採血するのもねぇ」

そりゃそうだ。貧血を進ませるだけだし、調べたところで母には何のメリットも無い。訪問医師は言う。

「貴重な時間です。思い出話などをしながら過ごしてください」

確か2週間前にも言われた。少々介護疲れの私は少し皮肉っぽく

「もう、十二分にしたような……これからは思い出話を掘り下げた方がいいでしょうか(笑)」

と返した。笑いたい訳ではない。本当は疲れていて泣きたかった。

 4週目の母を診察した訪問医師は言った。

「介護が上手くいっているんですねぇ。もしかしたらお盆までもつかもしれませんね」

 訪問看護師が言った。

「長女さん(私)大丈夫?手を抜きながら介護しないとダメよ。私は長女さんの方が心配」

 あまり自覚していないが、私の介護は周りの者から見たら、全力投球しているらしい。そんな事言われても、夜中に何度も呼ばれたら目が覚めてしまうから黙らせる為に仕方なく起きるし「ウ○チが出た」と言われれば、臭いが部屋に充満する前に替えたいと思う。食事はレトルトの温めが主だが、これが最後の食事になるかもと思うと、たまには調理した物も食べさせたいと思う。心身ともに疲れているが、私は弟夫婦のような構え方が出来ない。

 はい、私は不器用な女です。
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