第25話 瀬戸際 ③

文字数 968文字

 夫婦揃って長生きする末路は、人それぞれであってほしいと思いたいです。 
 
 父が明日をも知れぬ状態になって数日。そんな中、母の病院へ付き添った。前回の受診で

「手術はしません」

と医師に伝えたはずなのに、1ヶ月余りの間に気が変わった。その意思を受診の数日前に聞いた私は悲しくなった。手術したところで、何が変わるの?精神的には楽になるかもしれないけど……増えた癌は少なくはなるが、手術は母にとってマイナスだと思う私の考え方は間違っている?

 前々から何度となく弟嫁の頼り無さを書いてきた。その思いが確信する事が起きた。

 病院へ行く前に母は2階の弟嫁に階段下から声をかけた。

「Aさん、病院へ行ってくるから、おじいさんお願いねー」

返事は聞こえたが、見送ることはしない。受診後、母を玄関先で車から降ろし、私は家へは上がらず、薬局へ薬を取りに行った。そして家に戻ると……両親の様子が変だったので、話しかけようとしたら母が

「さっきね、部屋に入ったらおじいさんがソファーに居なくて。よく見たらソファーの下で起き上がれずにいたの。私が起こそうと思ったけど、出来なかったからAさん(弟嫁)に頼んだの」

 父はソファーで横になっていたらしく、起き上がる時にソファーから仰向けのまま滑り落ち、30分ほどもがいたが、起きれず、大きな声も出ず、内線電話で弟嫁にも連絡が出来なかったようだった。

「ワシ、このまま死んでしまうのかと思ったわ」

そう言った父は少し出ていた鼻水を拭くことも忘れ半ば放心状態だった。父を起こした嫁は既に2階に帰っていたので話が出来なかった。聞いたところで両親の言う話と、さほど違わないだろう。

 病院へ行く前に母は弟嫁に声をかけた。『四六時中見てくれ』と言ったわけではない。たまたま気付かれなかった30分だったかもしれないが、このような事態を目の当たりにして、今後母が手術をした後の生活を見てくれるとは到底思えない。だから私は母の手術にハッキリと反対した。本人の意志が優先などと言っていられないし、本人も術後の生活が想像出来ていないと思う。それなのに母は手術するという。弟は「本人の意思に任せる」と。もう私の体力も精神力も限界にきた。
母と弟に言った。

「私は術後の生活のサポートまでは出来ないからそのつもりで」

 どう思われようと、私は自分を優先します。

 





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