第39話 救急車 その2

文字数 941文字

 まさか私が……その体験は突然やってきました。

 父が他界して10日余り、今日からGWだというその日、私は救急車で運ばれた。

 夫と夕食を取っていた。メニューは焼肉その他諸々。カルビをひと口。数回噛んで喉を通ったまでは良かった……が、胃袋手前で止まった(私の感覚)トントンと胸を叩いて落とそうとした。こういうことは初めてじゃない。だがこの日は一向に落ちる気配が無かった。叩き方もトントンからバンバンになった。夫はその様子を眺めつつも、黙々と食べている。私も夫に助けを求めるつもりはなかった……が、少し苦しくなりプチパニックに。

「どうしよう、お肉が食道に詰まって落ちない」

と胸を叩きながら夫に訴えた。

「どうすればいいの?」

少しイラついた感じで言った。どうすればいいのかは、私が訊きたい。胸を叩き続ける私を見ながら何やらスマホで調べて電話し始めた。

「もしもし、肉を詰まらせているんですけど……いえ、喉ではないです。呼吸はしています……」

電話をしながら私をトイレに手招きして便器の前に座らせ、背中をポンポンと叩きだした。

『ああ、こんな力加減じゃ肉は絶対出ないわ』

と思っていると

ピーポーピーポー……!!!

夫はいつの間にか救急車を呼んでいた。私は自力で玄関へ。玄関に入ってきた隊員に状態を訊かれ、歩いて救急車に誘導された。そして担架のようなベッドに横たわり、体調不良の原因を詳しく訊かれ、指にパルスオキシメーター、腕には血圧計を付けられた。私は食道に肉が詰まっているのだが、視線は救急車の内部に釘付け。夫も一瞬乗り込んだが隊員に

「一緒に乗って行ったら、帰りはどうすればいいんですかねぇ」

と突拍子もない質問をしたので

「帰りはお送り出来ないんで、タクシーとかで帰っていただくしか……」

と苦笑いをされ、私は食道の詰まりよりも恥ずかしさで息が詰まった。すぐさま夫は自家用車で救急車の後を追う選択をし、私は1人で運ばれた。乗り心地はまずまず。一般車両を抜かしながらの走行はちびっ子用のジェットコースターに乗っているようだった。

 病院には早く着いたのだが、私よりも重篤な人がどんどん運ばれ、治療を受けたのは2時間後だった。詰まった肉は内視鏡カメラで胃に落としてもらった。

 夫の対応は賛否両論あると思います。




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