第45話 負けるもんか

文字数 818文字

 『1人で抱えない方がいいよ』と周りから言われましたが、現実的にはそうせざるを得ませんでした。

 自立歩行も困難な母を実家に受け入れると決めたが、弟嫁が出した条件は

『自力でトイレに行けること』

 厳しいと思った。でも何とかしようとも思った。とにかく弟嫁のヘルプは物理的に無理ない事以外は最小限にしなければ。私の考えが及ぶ限りのサポートを出し尽くそうと思った。

 そもそも、どうして自宅介護にこだわるかということだが、それは脅しとも取れる母の言葉があったから。

「もう、入院は地獄だった。夜は全然眠れないし、トイレに行きたくて看護師さんを呼んでも全然来てくれない。早く帰りたい、早く帰りたいと願っていたのに、本当に気が狂いそうだった……」

 こんなにハッキリ拒否をする母を施設に入れる事が出来るわけがない。弟や嫁に直接聞かせてやりたい。自宅介護を望むのは他でもない、母なのだ。それなのに私が弟嫁に頼み込み、私が介護のほとんどを担わなければならないなんて……実母だから理不尽とまでは言わないが、介護を拒み同居する弟嫁に気遣う事に腹を立てる私は間違っているか?介護するだけでも大変なのに……とにかく私の怒りを封印しなければ、実家での介護は不可能だとは悟っていた。

 入院前の母は要支援2。だが今の容体はそれ以上だと思い、まず介護保険の区分申請をした。介護1以上が付けば、サービスが増やせる。次に包括支援センターに自宅介護の為の準備をどのようにしたらいいのかを訊いた。介護認定が審査中なので暫定的だったが、ケアマネジャーを付けてもらい、退院2日前に介護ベッドとヘルパーさんの手配が決まった。その後、訪問医師と訪問看護師の手配をするのだが、こちらは私が直接交渉をしなければならないと言う事が分かり、私が進めようとしている事の全貌は、予想よりも遥かに神経を使わなければならない事だと途中で気付いた。

 どうして私ばかり……そんな弱音を吐く余裕はありませんでした。
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