第23話 瀬戸際 ①

文字数 875文字

 父の介護が終わりを告げようとしています。 

 RRR……♪
「あーもしもし、ariayu? ワシ、もう何も食えんから点滴を打ってもらいに病院へ行きたいんやけど。Aさん(弟嫁)に連れて行ってもらうわ」

 朝8時、父からの電話。数日前に同じような理由で点滴を受けた。時間にして3時間ほど。その時には

「もう、あんな長い点滴はやらん。腕が痛い」

そう、こぼしていたのに……受話器の側で弟嫁の声がしたので、代わってもらい弟嫁に様子を訊いた。すでに病院へは連絡がされており父の意向で、そのまま入院出来ればするかもしれないような返事だった。私は以前、看護師さんから

『お父さんの状態で入院したら、そこでお別れになると思ってください』

と言われたことを思い出した。父の声は、力無く上ずるような感じだったので、入院もあり得ると思った。とりあえず父の意向通り、弟嫁に付き添いを頼んだ。

 電話を切った後、酷く焦りを感じた。今の電話が最後になるかもしれない。その思いが頭をぐるぐると駆け巡り、居ても立っても居られなくなった。今日は歯科検診があった。予約が難しい先生に担当してもらっているので、出来ればキャンセルをしたくなかったが、父には代えられない。予約の取り直しをしたら2ヶ月先になった。軽くダメージがあったが、もちろん父には代えられなかった。

 そそくさと1泊分の準備をして、夫に父の容体を伝え、30分ほどで家を出た。病院までは高速道路も使う。焦らないよう、いつもよりも慎重に運転した。実家へは立ち寄らず、直接病院へ。前回の点滴の時間と同じなら、私が到着するまで点滴を受けているだろうと思った。
到着してすぐに、点滴の窓口へ。間に合った。しかも、まだ30分以上かかると言われた。弟嫁は点滴終了の時間に合わせて待合室にやってきた。点滴前の診察内容を聞いた。

「本人が希望すれば、いつでも入院させてくれるそうですが、一度家族と話し合ってから来てくださいと言われました」と。

 父には会えた。話も出来た。まずは来て良かった。

 私の車に乗せて実家へ戻りました。これが最後の送りになると思います。

 


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