第14話 壊れていく母 ③

文字数 847文字

 病院の待合室で、私が知る限りの母の無念な気持ちを淡々と父に伝えました。

 今までにも何度か父に対して逆上する母を見てきた。それは、どうやら私がいるときにのみ発動されるような気がする。同じような現象を夫に見たからだ。

 冷戦時代は終わりを迎えたが、友好的かと問われれば、違う気がする夫との関係。まだまだギクシャクしている。ただ夫は以前ほど不満を外に出さないものの、子どもたちが帰ってくると途端に私を蚊帳の外に追いやる態度を取ることがある。夫も我慢しているのか?我が子たちは自分の味方だから何をしてもいいと?その理不尽な物言い、許されるとでも?冷戦が長かったので、私はあらゆる態度に耐性を付け、昔の怒りを忘れようと努力もしている。ただ投稿で憂さを晴らすことを除けば。

 私がいない時の母は、父が雑で無神経な振舞いをしても、弟嫁にぞんざいな扱いを受けても耐えている筈だ。それが母が今いる場所で生きていく知恵であり、術だからだ。そして溜め込まれたストレスは私が実家を訪れる度に吐き出す。

 最初は素直に聞いて母をなだめていた。それが何回も何年も続けられて今に至る。母は、それでいいだろう。では受け皿になっている私のメンタルは?高齢の母に気遣ってもらおうなどとは思ってはいない。でも私も人間だ。近ごろ実家へ行く日が近づくと、滅入るようになってしまった。

「もう愚痴を聞きたくない。お願いだからやめて」

実家に着いた途端に始まった父への愚痴に嫌気がさして、声を荒げて頼んだ。すると母は

「愚痴?私そんなこと言った?愚痴じゃないのに……」

じゃあ何なんだ。すかさず問うと自分の正当性を認めて欲しいから言っているらしかった。でも、誰が聞いても母の言っていることは
『愚痴ってる』
ようにしか聞こえない。

 こんな母に誰がした?大恋愛結婚ではなかったの?なぜこんなにも恨み言を募らせるまで放っておいたの?親不孝と言われても私は父に母の愚痴を伝えずにはいられない。

 私も人生の末期に愚痴るのかしら……反面教師にしたいと思っています。



 
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