第47話 最後の通院

文字数 898文字

 母の退院から1週間ほど実家に泊まりました。

 退院直後の母は、夜中に父のことを呼び、そのうちの何回かは私を呼んで、起こした。

「眠れんのよ。夜中起きてる。どうしたらいいかねぇ」

 夜中にずっと相手をしたら私が倒れる。だから

「ラジオの深夜放送でも聴いたら?懐メロも結構流れるよ」

そう言って勧めた翌日の夜。

「ねぇ、今、女の人の声がしなかった?あっ、今度はこっちから男の声が聞こえる……」

もちろん私には聞こえない。それって、幻聴?ああ、とうとう認知症、きちゃった?私は軽くパニクった。続いて

「もうねぇ、壺、壺に入ってしまって出れんのよ」

母にとっての入院生活は、息がつけない壺の中だったようだ。やはり自宅に連れ帰って良かった。介護は大変だけど、正解だったと改めて思った。
幻聴は2日ほど続いたが、徐々に治っていった。

 退院から1週間後、経過を診てもらうために病院へ。そこで担当医に言われたのは

「ここまで来るの大変でしょ、そろそろ往診してもらうのはどうですか?」

それは今回、私が医師にお願いしようと思っていた事。以心伝心?いや誰が見てもそう思えるほど、母は弱っていた。

「今までの検査データを提供しますので、訪問診療の病院を探してください」

とサラッと言われた。だから次の医師は簡単に探せるだろうと思った。

 母が入院していた総合病院は、通院出来なくなった患者の為に訪問診療の医師を探してくれる『サポートセンター』がある。診察後立ち寄ると、既に医師から伝えられており、実家近くの個人病院がいくつか挙げられていた。以前お世話になっていたかかりつけ医は対応に不信な点があったので、敢えて避けた。でもこの選択が容易ではない事の始まりだと個人病院を決めた後に分かった。

 小さな田舎町では訪問診療だけで動いている医師はいない。外来患者を診ない日や時間帯に半ば医師の厚意で来ていただくのが実情だった。だから個人病院の医師に総合病院からの紹介状が届いても受けてもらえない事もあると言う。サポートセンターの担当者から

「第二候補も決めておいてください」

そう言われ、先の不安を感じた。

 あなたは、かかりつけ医を惰性で決めていませんか?
 

 





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