第58話 ただでは起きない

文字数 913文字

 介護生活の中で、ひとつだけテンションが上がる時があります。

 それは今まで経験してこなかった介護のコツや知らなかった専門知識をプロから直接教えてもらう時。両親の付き添いをしていた頃も診察時に担当医から薬や血液検査の見方などを学んだ。私は少しでも興味や疑問があると、ズケズケと相手に訊いてしまう、人によっては面倒くさい奴。時には病院の待合室でなかなか出てこない患者がいると『私のような人かも』と思いつつ質問も控えなければと反省はするが、興味の種は未だよく芽を出す。だんだん記憶力が衰えているアラ還の私だが、新しい事柄が増えていくのはやっぱり嬉しい。

 今は医師が週1回、看護師は週2回の家庭訪問を依頼している。毎度訊かれる内容は同じ事が多いが、それでも新しい情報もいくつかある。先日は医師から介護期間が長くなりそうな家族用に、以前通院していた総合病院で『1週間ほど患者を預かり入院させてくれるサービス』がある事を知った。受けられるものなら受けたい。だが母の場合はコレを受けたら本末転倒。自宅介護を決めたのは施設や入院を極端に拒んだ事にある。一時的に預かってもらい、精神的に病まれて帰宅されたら目も当てられない。

 看護師には『食道は物が入る前はペタンとくっ付いた状態』だということを教えてもらった。コレって常識?その他オムツの当て方、身体の移動方法、手首以外の脈の取り方などなど。ここ1ヶ月の間にレクチャーしてもらい、実践し、介護生活に役立てている。実は10年ほど前、義父母の介護に役立つかもと、ヘルパー2級の資格を取った。だがそれは名ばかり。頭でっかち?いや知識もほとんど忘れ、かろうじて覚えていたのはシーツ交換くらい。やはり身体を使う作業は身体が覚えてこその物種だと改めて思う。

 母が大変な状態でありながらも介護知識を増やしていくことにはネガティブな中のポジティブと捉える。私が患者の立場になっても役立つだろうと信じて。冷たい奴だとお思いだろうが、終末期の介護をしている人なら少なからず、その環境にどっぷりと浸からず、何処か客観的に見ながら過ごしているのではないかと思う。

 自宅での介護。我が子にはやらせたくないのが本音です。









 

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