第43話 母の入院

文字数 900文字

 父の四十九日を3日後に控えた日に、母は入院しました。

 『入院』を申し渡された直後に輸血は始まった。数日後の今になって、なぜが輸血されている母の肌の色を思い出す。血色が無いと言うのは、まるで蝋人形(ろうにんぎょう)のような肌の色なのだと。透き通った色白ではなく、どこか黄味がかった白に近いベージュ。現状を見て初めて頭に入った気がした。

 看護師に個室か4人部屋のどちらが良いかを尋ねられ母は

「寂しいから1人部屋じゃない方がいい」

と応えた。本音ではなく、おそらく入院費を心配しての母なりの言い方だった。だが、初日の部屋はナースステーションに近い個室で、私は『そんなに状態が悪いのか?』と急に不安になった。
コロナの終息宣言で、病室での面会は出来るようになっていた。それでも1日最大2人で30分間だけ。入院中何度か面会に行ったが、いつも看護師に『面会は30分でお願いします』と注意されるくらい短い時間だった。

 母の貧血は食道近くにある静脈瘤の脇に出来た豆粒大の突起からの出血が原因だった。母は静脈瘤が胃にもあって、それらが処置中でも破裂したら即死だと医師は言った。処置の有無を母、弟、私の3人で話し合い静脈瘤に関しては温存し、出血している部分の止血だけをお願いした。完治させたわけではないので、通院は寿命が尽きるまで続く。

 止血の処置でも、万が一のことがあると言われた私は、母の2人の妹に現状を伝え、処置前に面会に来てもらった。母が望んだわけではなかったが、叔母2人に挨拶をさせておくのが筋だと思った。

 処置は無事に終わり、2日後くらいに退院の許可が下りたが、右手が全く使えず、入院で歩行困難になった母をどうやって受け入れれば良いのか途方に暮れた。弟は嫁から

『施設に入れてくれ』

と言われたが、母は

『早く家に帰りたい』

と言った。手が不自由になる前から母にデイサービスなどでの入浴介助をしてもらおうと散々勧めたが、なんだかんだと理由を作っては行きたがらなかった。そんな人が施設なんてあり得ないと私は弟に言ったが、嫁を説得するのが難しそうだった。

 嫁と私の板挟みで弟は
「俺があんな嫁を連れてきてしまったから」と初めて謝られました。

 
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