第36話 益鳥 そのニ

文字数 705文字

 ツバメは、稲を蝕む害虫を食べてくれる、人間に益をもたらしてくれる、いわゆる益鳥である。
 また、ツバメは民家の軒下などに巣作りすることで、外敵の脅威から身を守ってもきた。
 このように、人間とツバメは、現代人が標榜するずっと以前から、すでにお互い励まし合いながら生きていこうねという、「共生」関係を築いてきた。
 それもさることながら、この国には「ツバメが巣作りする家は安全だ」という、そんな言い伝えもあるほど。
 こうして、ツバメは、われわれ日本人との関係がとりわけ深く、夙(つと)に愛されてきた鳥である。

 
 そんなツバメはつらくて、長い、旅の果てに、ようやく、生まれ故郷である、この列島に帰巣してくる。
 けれども、艱難辛苦を乗り越え、やっと、故郷にたどり着いたと思ったら、なんと、そこは針先がデンジャラスに尖った金属の針山だった……。
 なんてことがあったら、ツバメでなくても、だれしもが納得できないというもの。このような人間の心ない振る舞いに対しては、さしもの人間に益をもたらしてくれる彼らも、いや、そういう彼らだからこそ、冗談じゃないよ、まったく、と憤りを禁じ得ないことだろう。
 幾多の辛酸をなめながらも、それでもなお、種の保存という宿命を背負いながら、ようやっと、故郷に帰巣したツバメ――。
 そんな、けなげな彼らに対して、人間のご都合主義で、彼らの子作りの場をいやおうなしに奪う、この生きるための悪という、人間のエゴイズム……。
 こんな不条理の傍らを黙って、ただ通り過ぎるわけには、どうしても、いかなかった。
 というわけで、思わずおいちゃんは、あたりかまわず、やたら大きな声で叫んでいたのだった。


つづく
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み