第26話 ペルソナの下のわたし 第一話

文字数 670文字


「ねえ、ユキ、聞いてくれる……」
  スマホの向こう側で、トモミは声の調子を落として、つぶやくように言った。
 「実はね、わたしたち……わかれちゃったの」
  だしぬけに、トモミの口からこぼれ落ちた、衝撃的なことば。
  え⁈ うそ? 思わずわたしは、口をぽかーんと開けて、絶句した。
  青天の霹靂、とはまさにこのことだ。
  だって、トモミと旦那のコウイチくんは「二人は理想の夫婦だよね」と、学生時代からの仲のよいグループの間でもっぱら評判。
  それだけに、スマホを耳に押しあてたまま、わたしは一瞬、ことばが返せなかった。
  ほどなく、わたしの頭上で「でも、どうして?」の疑問符が、類似的に浮かび上がり、戯画的に踊り出した。


  やがて、ようやく自分を取り戻したわたしは、何を()いてもさしあたり、その「でも、どうして?」を訊かななくちゃ、という強迫観念に思わず駆られてしまう。だが――。
  そのときはもう、遅すぎた。
  理由を告げないまま、トモミは一方的に、電話を切ってしまったのだから……。
 ちょ、ちょっと、待ってよ、トモミ。こんな中途半端な状態で、わたしをほったらかしにしないでよ!!!
 向こう側にだれもいないスマホに向かって、わたしはむなしく叫んでいた。
 それ以来、わたしは悶々とした日々を送るのを余儀なくされる。「でも、どうして?」のわだかまりが、胸の奥にくすぶったまま……。
  そのときわたしは、思った。
  学生時代に知り合ってから今日(こんにち)に至るまで、彼女にはこうしてずっと、翻弄されっぱなしのわたしだったなあ、と、かえすがえすも。


つづく
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