第37話 益鳥 最終章

文字数 1,240文字

  もっとも、このおいちゃんのフンガイに対しては、こんな指摘があるやもしれぬ。
 それって、自意識過剰なおまえのひとつの価値観に基づく遠近法によってとらえた独善的主張にすぎないんじゃん、というような指摘が。
 なるほど、おいちゃんは自意識過剰で、独善的で、けっこう鼻につく、ヤナ奴だ。最近、とみにそれは自覚し、認識しているとこだ。
 それに、駅の入り口は公共空間でもある。ことに、朝の通勤時における人の出入りは一通りではない。その頭上につくられた、ツバメの巣……。ともすれば、フン被害に見舞われるという懸念は否めない。
 あ! もしや――突然、おいちゃんは考える。
 昨年、そういう被害が実際にあって、それで、被害にあっただれかが凄いけんまくで被害を訴えた。それを受けた駅側が、やむなく、このような処置を取ってしまった、というようなことが……。
 なら、駅側の対処もあながち悪くないってことになるぜ――というような声が、どこかから聞こえてきそうだ。
 ただ、そこは駅側も抜かりなかった。かねてよりしかるべき措置はとっていたのだから。
 では、どのようにとっていたかというと、それはこんな具合。
 この季節になると、巣作りされた真下にカラーコーンを設え、そこに『頭上注意』という張り紙を貼って、ここを通る人たちの注意喚起をうながしていたのだ。それも、もう何年となく――。
 したがって、ここを利用する人のほとんどことごとくが、この季節にはひさしにツバメが巣を作っている、ということは認識していたはず――。
 
 
 それもさることながら、昨今は『共生』ということばが盛んに叫ばれる時代でもある。
 共生――。これは簡単に言えば、地球上には様々な種類の生物が暮らしているけれど、みんなで、仲良く、共存共栄してゆこうね、という概念だ。
 それでなくても、ツバメの個体数は、年を追うごとに減少している。その要因の一つには、人間のエゴイズムによる環境破壊がもちろん挙げられる。
 少なくともそうである以上、この問題に関しては、こういう処方箋が考えられやしないか。
 そもそも、ここに人間のエゴイズムの表象のような針山を設えて、ツバメの側を辟易させることはないのだ。
 それより、人間のほうがツバメの側に意を用いてやればこの一件は造作もないこと。
 たとえば、フン被害に遭いたくない人は、駅側が用意したヘルメットでも被って、そこを通ればよいのである。あと、傘をさしたりとか……。
 
 
 なにはともあれ、時代のキーワードは「共生」なのだ。
 となれば、すべからく彼らの種の保存の一助に寄与すべきわれわれ人間ではなかろうか。
 この美しい地球は、人類だけのものじゃない。生きとし生けるもの、すべてのものだ。
 だとすれば、来年からは針山は撤去!
 ということで、来年からおいちゃんはまた、ツバメの巣が楽しめる!!
 かくして、これにて一件落着!!!
 とはいかないもんかねえ、針山を設えた、××線、○○駅の、駅長さん。益鳥なだけに……。
 
 
おしまい
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み