第12話 国づくり 前編

文字数 1,731文字


 あるテレビ局が、このたび各国の王様に「今後、どのような国づくりを目指されますか」というインタビューをほどこした。
 A国の王様は「そりゃ、あくまでも平和な国づくりじゃ」と、いかにも健全な左翼思想の持ち主らしく、そう答えた。
 また、B国の王様は「わたしは、国民ひとしなみにこの国に生まれてきてほんとうによかったと思える、そんな国づくりを目指しておる」と、これを聞く国民が涙して喜びそうな答えを披露した。
 それから、C国の王様は「余は、これまで通り立憲君主制に則った国づくりを標榜するまでだ」と答えて、鷹揚に、胸を張って見せた。
 そして最後は、D国の王様。
「わしは、必ずやこの国を軍事大国にしてみせる。そのためには、税金のほとんどことごとくを軍備増強に費やそうと思う。それにともない、社会保障費は大幅な削減となる。あ、それと、国民にはいま以上の税金納付を義務づけるので、そこんとこよろしく」
 と、こう答えてはばからなかった。
 な、なんだと!!!
 もちろん、これを聞いた国民総じて、思わず王様に突っ込んだ。
「これ以上増税したら、国民の生活は立ち行かないぞ!」
 学者は眉をひそめて、突っ込んだ。
「冗談じゃないぞ、まったく。ワシの年金はどうなるんだ!」
 年老いた男は釈然としないという口ぶりで、突っ込んだ。
「それじゃ、病院の費用がもっと上がるってこと……」
 年老いた女はそう突っ込んで、絶句した。
「ええ、来年産まれるこの子の出産費用はどうなるの……」
 妙齢の女性はお腹をさすりながら涙目で、突っ込んだ。
 にもかかわらず、この王様は国民の声など歯牙にもかけない。それどころか、現在10%の消費税を20%に引き上げるよう、議会に脅しをかけているともっぱら……。
 これには、いままで国家の方針に唯々諾々と従ってきた国民も「どないせんといかん!」と怒りをあらわにして、とうとう、立ち上がったのだ。
 
 
「こうなったらやむを得ん。ストライキ決行だ!!」
「そうだ、そうだ!」 わいわいがやがや――。
「国民をなめるなよ。さあ、みんなぁ、宮殿前の広場を目指してデモ行進だぁ!!」
「おう!!」
「ながしま!!」
 宮殿前の広場には、ストライキを決行している労働者はもとより、杖をついた老人、ふだんはあんまり政治に関心のない主婦、「学生だって立ちあがるんだ」というプラカードをもった学生ら、数多の群衆の波で実に熱を帯びて揺れていた。
 群衆は、宮殿に向かって、昼夜問わず、「税金の使い道を改めろ!!」「これ以上の増税は死活問題だぁ!!」とシュプレヒコールを上げた。
 これには、さしもの王様も心を動かされた――と思いきや、存外、「ふん、愚かな奴らじゃ、まったく」と吐き捨て、「ま、勝手にすればいいさ。どうせ、困るのは国民のほうだからな」と、むしろ冷然として憫笑する始末。
 けれど、それにしたって、王様はなぜ、こうも余裕しゃくしゃくでいられるのだろうか――という疑問が、沸いてくる。
 というのも、王様はタカを括っていたのだ。
 働かなければ当然給金は手に入らない。そうすれば、いずれ彼らも口が干上がってしまう。となれば、やがて、デモもやむことだろう、というふうに。
 それにな――こうも思って、王様はほくそ笑む。
 半年でも一年でもつづければいいんだ。でもわしは、びくともせん。なにしろ蔵には黄金が、まして地下の食物庫には食料が、それぞれうなるほど積んであるんだからな、と思って。
 だが、だからといって、国民だってへこたれやしない。
 いや、それよりむしろ、3か月余りすぎようとしているにもかかわらず、広場の前には、以前にも増して群衆の数は増えつづけている。それにつれ国民の気勢は、いやがうえにも勢い増すばかりだった。
 
 
「おい、従事」
「……お呼びでしょうか、王様」
「これは、なんなんだ!」
「は、はあ……」
「このメインディッシュは、いったい、なんだと訊いておるんだ!!」
「そ、それが、そのう……」
 従事はしょぼんと肩をすぼめて、うなだれる。
 王様は、執事をねめつながら、低い声で言う。
「食前酒のワインと前菜のキャビアまでは許せた。だがな……」
 王様はそこで、ことばを区切って、メインディッシュに目をやった。


つづく
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