第27話 ペルソナの下のわたし 第二話
文字数 1,534文字
トモミ夫妻がわかれたという噂は学生時代から仲のよかったわたしたちのグループに、かなり重たい石を池の水面に容赦なく投げつけたような、ひときわ大きな波紋を呼んでいた。
「理想の夫婦」とあんなに評判だった二人。そんな彼らがいとも簡単にわかれるなんて、だれも予想だにしていなかった。
わたしたちのグループはそれ以来、「でも、どうして?」について、さんざん議論を重ねた。要は、どのような理由で、彼らはわかれたのか、についてだ。
「これって、あれじゃない。旦那のコウイチくんが浮気したからよ。そうにちがいないわ」
「いいえ、そうじゃないわ。もしかしたら、トモミのほうじゃない。わたしはそうにらんでるわ」
「いえ、それより、あれじゃない。ほら、芸能人がわかれるときの常套句。性格の不一致ってやつじゃない」
「それよりなにより、あっちの不一致、だったりしてね、うふふ」
このように議論百出で、なかなか意見はまとまらなかった。
だいたい、居合わせたみんながお互い好き勝手に、しかも無責任に主張し合うのだからそれも無理はない。その上、自分の意見がいかに真っ当かを、それぞれが言い張って譲ろうとしないから、話し合いは、混沌の渦の中に。
もっとも、他人の不幸は蜜の味。ということで、こうした他人の不幸話は、暇を持て余している主婦にとって、無聊をなぐさめる格好のネタだ。
彼女たちは、表面上では「心配だわ」と同情しているものの、内面ではその実、余興話として面白がっているのにすぎない。
でもわたしは、ちがう。
学生時代に知り合ってから今日に至るまで、彼女にはずっと翻弄されっぱなしだったけど、彼女たちとちがって、わたしは心底トモミのことを心配してた……。
たわいない意見がさんざん飛び交ったけれど、その割には、どうにかこうにか意見は収れんされた。
では、どのように収れんされたかというと、「過ぎたるは猶及ばざるが如しとはいみじくもいったもので、トモミ夫妻がわかれた理由もお互いがより理解を深めようとしたからにちがいない」――というふうに。
トモミのことを心底心配しているわたしにとって、彼女たちのこの結論は、なんだか釈然としなかった。
ほら、だって、二人は理解を深めようとしていたのだ。それが、たとえ度が過ぎたとしても、はたして、破局の導火線になるものかしら。
どう考えたって、お互いが理解を深め合った結果として、むしろ、絆がいっそう深まるんじゃないか、ってわたしは思うの。
だから、わたしは当初、彼女たちのこの見解について、さっぱり合点がいかなかったのだった……。
さて、ここで、トモミ夫妻のことについて、ちょっと記しておこう。
彼らは、それぞれが会社を経営しており、二人とも目が回るような忙しい日々を過ごしていたの。
だから、二人きりで過ごす時間はほとんどなくて、どちらかといえば、すれちがいになることが多かったみたい。
ただ、彼らが偉いのはそこで、その隙間を埋めようとお互いが真摯に努めたところよ。
たとえば仕事の合間に頻繁に電話をかけ合ったりとか、あるいは、のべつラインで連絡を取り合ったりとかして、日々、お互いの距離が離れないように努めていたの。
たぶんわたしたちのグループは彼らの、そのけなげな姿を見て「二人は理想の夫婦だよね」と称賛していたんだと思う。
でも二人は結局、わかれてしまった。しかも、その理由はお互いが理解を深めようとしすぎたからだ、というではないか。
その結論を聞いたとき、なんだか、わたしは腑に落ちなくて、首をかしげていたものだ。
けれどすぐに、あ、そういうことね、と思わず膝を打つようなセオリーを、わたしは教わることになるの。
つづく