第39話 赤半纏の春さん

文字数 1,343文字

 大きな犯罪を犯すでもないし、大きな喧嘩するほどの度胸もないし。
義務教育を無事終えたかどうか?この青年を春さんという。春さんは父親が他界
して母親の手で育てられた。その頃はみんな貧しかったから、例外はないだろう。
 母親は、いつも私の家の手伝いにきていた。春さんは1年に何度も、未成年の
○○やXXであげられ、短い間だが臭い飯を食うた。出る時の身元引受人は父だった。
帰ったらしばらく、家にいて私たちは兄弟ようにして暮らした。私より2歳年長の
春さんは、偉そうに私をチエと呼び捨てた。大人たちは知っていたのだろうが、
私の知らぬ間に春さんは家を出て行っていつの間にかいなくなっていた。
いつも繰り返すから騒ぐこともない。それは恒例になっていたのだ。

 成人した私は友達と二人で下宿をして洋裁学校へ通っていた。そんな時、町で
ばったり春さんに出会った
「チエ」でないか」矢継ぎ早の話の挙句
「映画見とうないか。みたかったらいつでも見せてやるぞ」
「うん見たい」次の日曜日の時間と映画館の前を約束して別れた。
開館と同時に「頼むぞ」と二人を入館させて、春さんはどこかへ行った。
こうして友達と二人はいつも見たい映画をタダで見ていた。

 月日は流れて、あれからやがて2○年が経過していただろう。私は
結婚して、夫が仕事に失敗しその上、体を悪くして、働けなくなって、私は
生命保険の仕事をしいた。病身の夫は働かず働けず、かと言って家にばかり篭れない。
爪に火を灯すようにして生活し、残した僅かのお金を持っては雀荘へ行く。
 書けば長くなるが倒産のどさくさで製品化されていない機械があり
それを仕上げて大阪へ納品。命綱として、口を縫い、隠し持っていた
大金(私にしたら)を投入して雀荘の権利を買った。夫は生計は成り立つ。
これで生計を立てる。と約束し、夫はメンバーボーイとして働いた。
いくら好きなマージャンでも、明けても暮れても仕事にするのは抵抗が
あったのだろう。理想と現実は離れ過ぎていた。

 ちょうど春休みだったので田舎の高校生の娘さんに泊まり込みで
来てもらい。家といっても工場の2階で長男と長女の面倒を見てもらっていた。

 夫は1日中雀荘暮らし。私は、昼は生命保険夜は雀荘。一勝負したら場代を
200円徴収するのである。毛布に包んで腰掛けで寝ていて、ガチャ、ガチャ
やり出したらお金を集めに行く。メンバーボーイの夫も機嫌よう遊んでもらえたら
いいのに、メンバーボーイが勝つのだ。
ままならぬもので、勝ちたい時には勝てず、少々負けてもいい時にも勝つ。
 こんな日が20日間つづいて、異口同音に根を上げた。また転んで木阿弥に
なったが、保険の仕事は辞めていなかったので、生活に困ることはなかった。

 あの時の息苦しさの思い出の方に引っ張られて勝手に方向転換してしまった
けど今日は春さんのことを書いていたのだ。主題に戻ろう。
 
 苦しいそんな日、下駄を履いた、見るからに普通の人でないお兄さんが
「おーい此処は経営者が変わったというなあ」と、やってきた。
雀荘に入るなり「チエ、こんなところで何しよんな。あら先生もおる。……ここら
辺で困ったことがあったらいつでも言うてこいよ。頑張れよ」

 肩で風をきって出ていった春さんは、
 当時赤半纏の春さんと人気者だったと言う。















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