第12話 無断拝借

文字数 508文字

 財布を持たぬ夫は、二つ折りにした腹巻きが財布代わりである
紙幣は勿論、必要な書類、小物も腹巻に入れる習性がある。
毎晩飲みにいって前後不覚で帰ってくる。
 一度飲酒運転にかかっているから、夜は絶対車には乗らない。
いくら飲んでも深夜を越えることは、殆どない。それは、ある先輩が
「女房を信用さす遊び方の一カ条だ」と教えてくれたそうである。
 二日酔いでも朝はきちんと起きていたから、私も大めに見ていたが
だんだん、二日酔いの日が増えていった。
無理に叩き起こしても、事務所で醜態をさらす「あぶ、蜂とらず」である。
仕方ないら自由にしておいたら、10時ごろ起きてくる。

 「このごろ社長はどうなっていのか」専務に聞かれる。
「ちょっと体調が悪い」誤魔化している

  そんなある夜、腹巻からお札が飛び出していた。
どうせ、また明日も使うのだからと、思案しながら1万円を抜き取った。
あの、不覚は何だったのだろう。 翌朝のこと。

 「ちえこ一枚抜いたな」
 「私は何もせんよどうしたん」
 「おかしい一枚足らん」
ドキッとした。夫は金銭にも商売にも綺麗な男である。
あの酔いはお芝居であったのか。今も?のままである。   

 勿論それ以来無断拝借はしていない。





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