第46話 鬼は外

文字数 577文字

 デイケアセンターへ見学に行った。
炒り豆を袋に入れて配られた。センターの職員さんたちは幼児にするのと同じ
ことを老人にする。なにの違和感もなしにする。
立春といえども風は冷たい。暖かい日差しを受けて内庭の懐に集まっていると
突然、赤鬼と青鬼が現れた。老女たちは我先にと、いま手にしたばかりの袋の豆を
鬼を目掛けて投げつける。どれだけの方が楽しんだかは⁇であるが、
そのいかんに関わらず、計画して老人のお守りをしてくださっている職員のご苦労に
頭が下がる。
 九十年生てきたけど、豆蒔きをしたのは、初めてであった。
 そうだ。こうして父も豆蒔きをしていたのだ。
 十分足らずでまめまきは終わった。福は内の声と一緒にのろのろと部屋に戻った。
楽しませてくだたったはずの行事だったのに、落ち込んでしまった。
 
 デイケアを辞めてから、「老い込んだ」とヘルパーさんに注意されて、またぞろ
行き先を探しているのだ。「帯に短し襷に長し。両方いいのは頬かむり」よく言ったものだ。
「じゃんけんぽん」がなくなったショックからまだ這い上がれずにいる。
気学の仲間が束になって逢おうとする。それは疲れるから駄目。
私から得ることはもうなにもないだろう。若さっていいなぁ。知ろうとする。学ぼうとする
純粋なこころに圧倒されるこのごろである。
 今日も数時間福祉のお世話になった。ありがたいことだと感謝している。








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