第16話 時は流れて

文字数 512文字

 今年、娘が還暦になった。
60歳は若いなぁとつくづく思ってしまう。
息子たちも67歳と57歳。夫の享年を越えてなお、矍鑠と
している長男。それにしても夫の59歳の旅立ちは早かったなあ。
あの人の、生きた喜びを感じたのは、いつの頃だったのだろうか?
近年、思い出して考え込んでいることが多くなった。
 
 私の転居の手伝いに、5年ぶりに娘が帰郷した。浜名湖で合流して
会って以来、会うのも2年ぶりである。
 建築士の目で棚をつけたり、補修したり、調度品を買い揃えたり、
至れり尽くせりして夜行バスで帰京した。

 大船に乗ったように、ゆったりと暮らしたこの5日間。私は幸せで
満足していた。時計よ、時よ止まれと願ったが、自然は動く物の意思に
かかわらず、流れていった。

 今、また一人になって、常夜灯を見下ろし、流れの記を書いている。

 初めて長男を県外に出した日、主のいなくなった部屋に座り込んでいた
事。娘や次男を県外に送り出した日も、空っぽの部屋でキュンと胸にくる
思いを耐えていた事を思い出している。あの寂しさと重なる。いつも別れた
後は虚しい。その内、時間と平行して平常心に戻るだろう。

 日が変わった。
明日は、なにも予定もないが布団に潜ることにしよう。




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