第25話 ピアノ(3)

文字数 378文字

 最近長男の家をずいぶん久しぶりに訪ねた。
私が住んでいた頃と、何もかもすっかり様変わりしている。
居は人を表すの通りだと感心した。
ピアノだけは昔のまま、居座っていたが、覆いも古びて、
物置台になっていた。これぞ無用の長物だと悟り、貰い手を
探したがいない。仕方がないので業者に引き取ってもらった。
 二階に据えてあったので搬出が大変だった。ピアノの出て行った
後に三つの丸い形が残った。四十数年前の絨毯がそこだけ色鮮やかだ。
 
 売った5万5千円の金子を握りしめた。
亡夫が買った時の思い。娘が飛び上がって喜んだあの日のこと。
私の片手の弾き語り。走馬灯という表現は好きではないが、まさに
走馬灯のごとくとめどなく思い出す。
 
一円も残さず肉を買い、関わった人に配った。
東京の娘にもピアノ売ったからねと肉を送った。
「人生ままならむ」こんなはずではなかった。
 大きな終活だった。



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