第36話再会した秀さん(2)

文字数 373文字

 彼女は堰を切ったように一瞥以来の出来事を話し続けた。
職場のレストランで馴染んだ配偶者はフィリッピン人でコック
だったという。子供が産まれて3人で里帰りをした。が、彼も
孤独な生い立ちだった。彼は血液の病で進行が早く手遅れだったと
涙を流した。泣くことで涙は枯れ、話すことで自分を取り戻して
いったように見えた。
運命のいたずらなどといえない。この世に神、仏は座すのか?
戦争孤児になり、一人で命をつないで生きた弱き女性。
その上、彼女は原爆手帳、保持者でもある。
 あの蜜柑山の思い出から、数年以上が経ってるだろう。
たかが数年、されど数年。お互いに環境も生活もすっかり変わった。
私は、その時、差し伸べる手も余力もない。
自分も足元に火がつきそうだった。
 夫君のご冥福を祈りつつ四十路に間のある、余りにも若い寡婦の
彼女と遺児に思いを馳せると、胸がいっぱいになった。

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