第2話 トンネルを出た

文字数 522文字

 峠のトンネルを出た。眩しさに目が眩む。
ここは、村一番の見晴らし台。村が一望できる朝日を浴びて小さい村は
輝いていた。遥かに見える鎮守の杜の手前に白い建物が小さく見える。それは
私の産まれた家だ。いつも必ず立ち止まるふるさとのトンネルの入り口は、出口。
 貧しくても子は育つ。長男が進学期を迎えた。高専の受験日である。
 南国には珍しい雪の朝。長男と友人二人を乗せて試験会場へ向かう。三倍の
競争率だから、このうち一人しか合格しないんだと、それぞれが思っているが
誰も言葉には出さない。千秋の思いで待った合格発表の日がきた。軍配は息子に
上がり、難関を突破したのである。家中が沸いた。挫折から五年の歳月。人並に
高専にやれるとは、感無量。夫はこれで大学へやらなくて済む「親孝行をしてくれた」
どんなに喜んだことか。 
お祝いに家族で町にたった一店あるフランス料理店へ行った。夫を除いてみな初めて
のご馳走である。ナイフやフォークを手にするのも初めてとあって緊張していた。
二男がナイフを落とした「拾うな」夫の声に怯えて萎縮する。
子供心に感じるものがあったのだろう。以来この店は「好かん」と言って行かない。
 高専は全寮制なので、いそいそと離れていき、狭い家が広く感じた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み