第48話 地震と一寸先(1)

文字数 1,049文字

 遥か空の彼方は鉛色の天地一色。
この分では雪が落ちてくるかもと期待しながら、故郷の友に電話を入れた。
「降ってはいるが冷たい雨よ」やっぱり暖冬でここには雪は降らないんだと諦めた。
こんなことを言っていたら能登半島地震で被災した方々に申し訳がない。

 地震といえば阪神淡路地震を思い出す。当時、二男は神戸に住んでいた。我が家も
がたがた揺れたと感じたあと、直ぐ電話が鳴った。娘からだった。
「今の地震は神戸なの。弟に連絡を取ったが取れない。何かわかったらまた電話するわ」
飛び起きていつでも出動できる体制で二男からの連絡を待った。二時間も待っただろうか?
「お母ん僕だ。僕は大丈夫だから心配しないで」急いで電話を切ろうとする。
「ちょっと待って今どうしているの」
「これは公衆電話で後に二百人も並んで待っている。後から電話するからもう切るよ」
それっきり、夜まで連絡が来ない。
 忠実な社員なら一番に会社に駆けつけただろうと思うけど、二男が出社したのは
課で一番後だったと聞いた。
「これではこの子出世はできないな」と心底感じたが、何でもよい。生きていてくれた
だけでありがたかった。
 住んでいたマンションのインフラは壊滅して山の手にある友人の家の応接間に居候
していると知り、何日か後、食料と水を自動車に積み込んで神戸に向かった。大鳴門橋は
通行可能、淡路島からフェリーで神戸に着いた。建物が崩壊して行手を塞ぎ、車は進めない。
その上、土地勘もない。迂回路を辿りたどり、どうにか着いた。携帯電話のなかった時代
だから安否の確認は固定電話だけである。その電話が地区によっては繋がらない。
 二男のマンションの両隣に立派なマンションが建ったばかりだったが、無惨に崩壊していた。
東灘区は被害の激しいまちだった。二男の勤務先の社屋の被害も著しく平社員はしばらく自宅
待機になったので、待機の間、帰郷させていた。精神は不安定だったが親としてなすすべが
なかった。言葉を交わすこともままならない。うっとしそうに二男が避けるのである。
それでも日にちぐすりで、声のとんがりかだんだんなくなってきた。
 そんな一日、ほっとして外に出て大きく息を吸い込んだ。近くの山裾まで足を伸ばした。
枯れ果てたススキが風に揺れて、その根元に、枯れ草に保護されているのだろう。
犬ふぐりか咲いていた。紫紺は好きな色、犬ふぐりは好きな野の花。
「なゐの子のまろくなる声いぬふぐり」もう直ぐ春。春近しを詠んだつもりだが、俳人には
笑われるだろう。
 そっちじゃあない。方向転換感しなくては。























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