第20話 夏も寒かった

文字数 756文字

 阪神大震災の被害者の1人である息子。
野球少年になり、親にも夢を分けてくれた時もあった。
思い返すと、大学を選んだ時、僅か一度ほどずれがあった。
そのずれは、一度のままで年と共に末広がりになった。
人間の運命など、どこで狂い出すかわからない。

 息子に負い目があるから、なにでも欲しいままに与えた。
留学(遊学)然り。マンション然り。
やっと落ち着いて3年後にあの震災。
神戸は見るも無惨にやられた。自宅待機が嫌だと退社した。
プー太郎になる。それでは結婚もできなかろう。
しぶしぶ故郷へ戻った。就職も果たした。

 80婆さんと独身の50男が世間の片隅でひっそりと
暮らしている。聞くだけでうら寂しい。当事者となれば
なおさらである。と思うのは親だけで、息子はいい給料
貰って独身貴族を楽しんでいる。なんということだ。

 彼女ができたら、嫁ができたらと、一縷の望みを神仏に
託したが、神様も順番待ちだった。

 それならばと結婚相談所へ申し込んだ。
写真付きの身上書を見せてくれた。2〜3名の方と
会わせて欲しいと申し込むと、その方々は今、他の方と
進行中という。ならば見せるな。看板娘ということか?
こちらが公務員ならばまだ他にお話があると宣う。公務員
でないことを承知の上でいうのだ。私は怒りの虫を抑えた。

 さて見合いは決められた場所へ5分前につき、
白いハンカチを卓の右上に畳んで置く。が決まりだという。

 何があっても、そういうことをする息子でない。結局一度も
見合いすることなく、年会費6万円は泡と消えた。
 その上、退会届を出さなくては次年度の会費を徴収るという。
入会も退会も、息子の知らぬ間の出来事であった。

 新聞に紹介所の広告が載るが何処も同じ穴のムジナに見える。
 
  紙面に目を通すたび 、
 私のような目に合っている人が何人いるだろうかと案じる。






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