第19話 保育所

文字数 913文字

 娘と二男を同じ保育所へ預けることができた。
後顧の憂いなく自分の仕事ができて本当に助かっていた。
中でも山内先生は、特に二男に配慮いただいた。
迎えが遅くなった時など「おじや」を作って食べさせて
くれていた。保育士としてでなく、親のような心根だったのか?
とにかく地獄に仏。この保育所はありがたかった。

 卒園の日がきた。式の前日、お願いがあると言われ、
「こんな私にお役に立つことがあれば……」
「明日の卒園式に会長が出られなくなり、挨拶を他の役員に
頼んだが、誰も受けてくれなくて困っているの。お母さん
助けて」
「ヒエー私に挨拶しろとおっしゃるの。そればっかりは……」

 押し問答の末、お受けせざるを得なくなった。
 千分の、いな満分の1の報恩になるかと受けたのであるが、
生まれてこの方、公的なところで挨拶などした事は一度もない。
「00年度の00の卒園に当たり保護者を代表致しまして……」
よくまあやったもの。先生に喜ばれて、恥ずかしながらちょっと
いいことをしたのか?飛び上がったまま、足が地につかなかった。

 翌年また同じようなことが起きた。
住所変更に伴い二男は保育所が変わった。私はその保育所へ給食
の材料を納入していた。
 卒園式の直前になって挨拶する予定の副会長が来ないと困っていた。
「保護者の挨拶なしで式は進められない。誰にお願いしても『そんなに急
には』と誰も受けてくれない。こうなったら会長さんに責任をとってもらう
他ない。お願いします」と言うてきた。「話が違うだろう……」
 この保育所の保護者会の会長は故あって夫がしていた。世話も出来ない
何もしない、名前だけならと甘んじて受けたのが間違い。本当に何にもしな
かったから、世の中に名前だけの会長や役員はいらないと真実思う。
この会も副会長が世話をしていた。

 式直前のことである。
「ええー。それは困ったなあ」去年のことが昨日のことのように蘇った。
「仕方ないなあ、主人は不在だから私が…」
今度は押し問答なく軽やかにうけた。
去年の挨拶をちょっと捩ったらよかったのだかやら。

 2年も続けて保育所の卒園式に保護者代表の挨拶をしたことになる。
 若いってことは、前だけを向けるのだと、今は振り向くばかりである。


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