第17話 トンネル。出口、入り口

文字数 597文字

 トンネルを出ると現世が、ぱっと開け故郷が一望できた。
人心地がつき、3人は途端にお喋りになった。このトンネルの出口は、
または入り口は、今も村1番の被写体の場である。

人跡絶えたかに思えた村境いの峠のトンネル。入り口と出口は通る人が決める。
私の意識の中では、トンネルといえば、小さい200メートルほどの妖怪が
出てきそうな、峠のこのトンネルだ。
入ったらその向こうには狐も狸も生息していた。

 もの心ついた頃より、生家では味わえない、温かい懐を求めたのだろう?
春といわず、夏も、雪にもめげず、通い通した母の故郷、隣村の祖母の住む家。

 行きはよいが、帰りは怖い。小学4年生からは、1年生の従兄弟と弟を引き
連れて3人で縦隊を組んで行進した。もちろん隊長は私である。
 昼なお暗い杉林が続き道はあったから、あれは樹海とはいわないだろう。
小1時間も歩くと前方に民家の屋根が見えた。隊長を押しのけて弟たちは走った。

 帰りもまた杉林を越え3人は隊を組んでトンネルに入る。
ひびが入り水漏れしていたトンネルの中は「ピッチャン、ピッチャン」
と音をたてている。自分の足音が追いかけてくる。立ち止まれば足音も
止まる。3人3様に恐ろしさに言葉も出ず、息を止めてトンネルを抜け
たのだった。

 幸い3人はまだ健在である。3人寄ると思い出話は、このトンネルである。
弟を「カズ」従兄弟を「マサ」と愛称は今も変わらない。
 私は今も隊長さんだ。


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