第5 掴んだ足掛かり

文字数 659文字

 友人、知人、夫の四人は、私の八百屋の一角で会社を設立した。
昭和四十四年。資本金五○○万円の均等出資だった。
夫以外は、みな本業があったから、会社は自ずと夫が責任を
担う形になった。
 友人のMさんの着眼に狂いはなく、未来ある仕事のようである。
新建材(軽量)を使った新建築のはしりである。
経験者もいないし、もちろん職人もいない。
夫が、講習を受けて、大工、左官の経験者を募集した。
人手が足りず、土工も、農閑期には農家の人も来てもらった。
六ヶ月で資本金を食い潰し赤字になる。
 夫のどんぶり勘定にはついて行けぬと、株主から不調和音が出た。
話し合いの末、赤字会社を夫が買い取ると言う。
「またあの貧に戻るのか。私は嫌だ。私は協力しない」
「わしを信じてくれ。絶対に成功させるから、今一度……」
「発展はないが生活するには八百屋で十分だ」
「また転んだのでは男が立たん」
「浪費、丼勘定を改めないと、やっていけんわ」
「肝に銘じとる」
「会社の経理は私が握る。それでもいいの」
問答をくりかへした。
夫は必死であった。
 また振り出しに戻ったのである。
買い取るお金はない。
国民金融公庫で借り入れた。
兄は家訓に叛いて、保証人になった。
とうとう赤字会社を買い取った。
再び、寝る間も惜しんで働くことになった。
 M商事関連の基幹工事会社として、
高度成長の波に助けられれた。
トラックも職人も増えていった。
 私は、八百屋をたたむことにした。
365×三年休むこともなく、立ち続けた
私の職場。多くの出会いをありがとう。
お客さんありがとう。
支えてくれた子供たちありがとう。


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