第8話 苦節10年

文字数 543文字

 どん底から10年の歳月が流れた。
あるときは、洪水に巻き込まれ、また分水嶺で子供と別れ、なぜ自分だけ、
苦労が続くのか、神も仏もない。なら自力で立ちあがろう。
今立っている足元を見ずに、遠い所の子供の未来を思い描いていた。そのため
の辛抱、我慢だとトンネルの中で、トンネルを出た時のことを夢みていた。

 10年経てば赤児は10歳になり、長子は20歳なった。
夫は、自分一人で社会復帰し、再び起業したと鼻息は荒い。懐が少し楽になると
遊びは旧に復した。末の子が大学を出るまでは辛抱しよう。だが限界に近づいた。

「僕はもう高校を出るから、僕のために辛抱することはないから」
見兼ねた息子が言った。離婚届に記入捺印して夫に出したが、
その場で破き破棄した。すでに一対の夫婦ではなくなっていた。が、仕事上の 
パートナーとしてお互いに欠かせない存在だったのだ。

 夫ばかりが悪いのではない。喧嘩両成敗だ。私が、私がと思い、私がどん底を
乗り切った。と言う自負が夫にはたまらないのである。分かっているけど、
どうすることもできない。

 夫は酒量も増え、暴力を振るうようになって行った。夫は私が小賢しいしく、
うっとしいのである。しかし私は子供のためだけでなく、従業員や家族のことを
思うと、ますます小賢しくならざるを得なかった。



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