第23話 ピアノ(1)

文字数 665文字

 夫は尺八、長男はギー、娘はピアノに二男はバイオリン。私は
何もできないから、もっぱら軍歌を歌うだけ。軍国酒場へ通い出して
やがて50年。俗にいう音痴だから軍歌以外は調子が取れないのである。
生前の夫は私の友達を読んで三味線に合わせてもらって尺八を吹いていた。
彼はピアノもバイオリンもこなしていた。音色のわからない人間は、脳に
どこか欠けたところがかる。と私をバカにした。それほんと、私は小学
唱歌を歌っても、まともに歌えないのだから。

 娘がピアノを弾いて二男がバイオリンで合奏している写真がある。
この時の純白のドレスは私が手作りしたのに、何故か二男の服装は冴えない。
 
 音楽はこの世の潤滑油だからと特に娘のピアノの練習に熱心だった。
ピアノの教習所へ通っても家にはないから、宿題が出来ない。
「もう少し、もう少し待ったらピアノを買ってあげる」
「ほんま。ほんまやな。その時は大きなグランドピアノを買ってな」
約束が履行できたのは6年生になってであった。娘は父親に似て絵の才能も
あるようだし、美術か音楽に進むのだろうと私は漠然と見ていた。
 今までの不足を取り返すように娘はピアノに夢中になっていた。
3年生から始めたダイビングとピアノの送迎は父親。二人は二人三脚で、
こなしたではない。挑んでいた。
 
 高校2年の松本国体まで二人三脚は続いた。
この時応援に行って、10メートルの高台から回転しながら飛び込む
娘を初めて見て、胸が高鳴った。中学、高校とそれなりの成績を残した。

 写真入りで新聞に載ったら、しばらく時の人になったことなど、
 今は遠い昔の話だ。

 







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