第21話 女王蜂の嫉妬
文字数 2,758文字
「初めてお目にかかります。
「ありがとう。式典に出れなくて申し訳なかったね。体調が
心配そうに言われて、孔雀は真っ赤になって
「・・・申し訳ないのは私の方です。
「・・・まあ、一度きりはね。このチビッコが、話が違うとわんわん泣いて。
改めて全くとんでもないことだ。
「・・・とんでもないついでに。以前、貰った手紙ね。あのなんとも雅で野蛮な薬。内容は大体合っていると思うわ。現物は手に入れたのかい」
「ありません。その女官が全て処分しておりました。内容も明かさぬまま亡くなりましたので、わかりません」
「正確には、それが何なのかも分かっては居なかったようなんです。秘伝のタレみたいにずっとあったものをその都度、持ち出して居たようで。・・・多分、少なくとも五、六十年はたってると思うんですよね。賞味期限とか消費期限とか大丈夫なんですかね。私そんなの飲んじゃって・・・」
おかしいですよね、なんて笑っている。
「秘伝のタレって。鰻や焼き鳥じゃないのよ。それに殺されかけたのになんて呑気なの。腐ってる心配どころか毒物よ」
「それが何か知ることもせずに用いるなんて。なんて愚かで恐ろしいこと。女官の悪習はもう過去のものと思って居たけれど」
女官が最初に叩き込まれる事は、礼節に背くことに注目してはならぬ。礼節に背くことに耳を傾けてはならぬ。礼節に背くことを口にしてはならぬ。礼節に背くことを行ってはならぬ。
つまり、それが礼節に背く事であるのなら、善悪すら知ってはならぬのだ。
「今の女官長樣のお祖母様の時代からは大分風通し良くなったようですね」
「それでも全部とはいかないね・・・ちょっと無念だわ」
「礼は悪いものではないですもの。礼も節もない家令とそりゃあぶつかるわけですねえ」
その呑気さに
確かに、何でもかんでもやるだけやって命を最後まで燃やして前のめりで死ね、と教えられる家令の対極の存在であろう。
「では、小さな
孔雀は
膨大なデータで、孔雀の既往歴、毎日の体温や、その都度の血液検査の結果、問診票等が綴ってある。
男家令は皮膚、女家令は皮膚と子宮口に避妊用の器具を装着している。
そのメンテナンスも兼ねて、毎月健康診断があるのだ。
「お前、
「どうしてですか?」
「うん。血を採るとね、結構いろんなことがわかるんだよね。この数値がね。普通の人間はこんな高くない。何か病気かなと思ったけれどそうでもない」
グラフを見せる。
「免疫というやつだよ。ご正室様に毒を賜ったってね。いくら吐かせたといっても、これだけ飲んだら致死量だもの。・・・感染症に強かったり、食中毒になりにくかったり、傷の治りが早かったりするんじゃないかと思う。・・・
「
物語では魔女は魔法で王子様をカエルにしたり、お姫様を眠らせたりしていたけれど、特段そんな事も無かったので姉弟子が自分を
真鶴ならそんなことも出来てしまいそうだったけれど。
「お菓子?どんな」
「
ああ、と
確かに魔法のお菓子だよ、なんて言われたら子供、特にこの妹弟子が喜んで食べてしまいそうな色ガラスのように鮮やかな見かけをしている甘い砂糖菓子だ。
物語でも子供に甘いことを言って食い物をくれるのは大抵悪い魔女じゃないか。
魔法の結果はわかってるの。でもどう作用するかはちょっとまだわかんないのよね。苦しいことになるかもしれないし。そうあの姉弟子はさらっとそう言った。
しかし、
その後、
「でも、私、免疫は弱いと思ってました。しょっちゅう熱出すし、特別丈夫なんてこともなく健康でもないです。どちらかといったら虚弱な方で。
「あの二人は装甲板が厚いしエンジンの馬力の仕様が違うよ。・・・とにかく
孔雀は頷いた。
聞いたことがあるけれど、しかし、スズメバチに刺されたこともない。
ガーデンの養蜂の蜜蜂だって、あれだけ花が咲いているから
「これはねえ。クィーンビーという副題がついていたプランだよ。女王蜂ね。・・・つまり。あんたと誰かがある程度以上の濃厚接触をすると、相手がアナフィラキシーみたいに死んじゃうのね」
信じがたい事をすっぱり言われて、
「・・・あらまあ、命拾いしたわよねえ、あの王様。非濃厚接触だものねえ」
「なんて嫉妬深いお姫様だろう。きっと自分はお前と愛し合っても大丈夫にしてるんだよ。でもそれはきっとお前を縛る