第36話 妃殿下候補
文字数 3,648文字
家令の内でも
生成りに近い白いスーツに、計算されたショートカット。幾何学柄のスカーフ、白いハイヒール。石を使わないシンプルでシャープな金属のアクセサリー。
毛織物の漆黒の家令服に、結った髪、孔雀の羽の模様のカメオの髪飾りの自分等、まるで時代劇の登場人物のように見えているのかもしれない。
それは
特殊な世界で生きてきた
会話や所作や思考の随所に分かる
そして彼は正しい。家令とは旧時代のシステム。城に仕える官吏や武官や女官が、公務員という名前で総括されつつある今、
しかし、この時代劇の演目の中心人物のひとりもまた彼である。
彼等の為に自分達は用意されたのに、と
ギルド出の総家令等、議員から見たらまたこれも目の上のタンコブだろう。
現在の皇帝の継室は議会派だが、とはいえやはり宮廷では元老院の意見が重用されるし、総家令がギルド出とあっては、議会派が主流とは言えない。
「・・・何度も意見しているけれど、どうして
「三妃様は継室候補群のご出身ですし、三妃様というお立場で入宮されておりますので・・・」
彼女にも三妃にも何度もそう伝えてはいるのだが。
「現在、正室も継室も他にいらっしゃらないのに。実質、
そもそも継室という慣習に反対なのだ。
確かに、三妃はマスコミ受けするのだ。よくそのファッションが取り上げられている。
事実上のファーストレディーとして国際的にも知られている。
「他に継室もいないのに、いつまでも三番手の呼び方なの?」
「昔。大昔ですよ。昔は、継室はその序列が入れ替わったりしたそうなんです。貴妃とか妃媛とかいうんですが・・・」
「じゃあ、それでいいじゃないの?」
「何で序列が変化するか、というのが問題なんです」
「ならば紅小百合様が一番じゃないの」
政治的な思惑と、寵愛度、つまり皇帝のご気分次第とは言い出せない雰囲気。
「今時、女性の人権侵害よ。貴女は都合が悪いかもしれないけれど」
この総家令は皇帝の
三妃が正室ではお前が困るのだろうと言いたいのだ。
「階級があった、というのは、当時のご継室方に各々役割があったということです。いわゆる社会的地位ですね」
「
「・・・だけど・・・!?」
「どちらにしても今、
「ああ、そうね」
ホテルのバンケットを貸し切って食事会と、討論会が行われるらしい。
理沙の古巣のマスコミ関係者も集まるらしい。
「お車を用意しておりますので。何か御用命ありましたら随員の
どうしても人の目を奪う
そんな事が何度かあり、元老院はそろそろ本気で焦っていた。
マスコミに取り上げられる度に、皇太子は若手議員の支持者として持て囃される。
それが広く国民には歓迎されているのだ。
「このままでは、あの元ニュースキャスターが后か妃になるのでは、と元老院長に遠回しに言われたよ」
「まあ、そんな。ご正室は、元老院のお姫様方からでなければそれこそ元老院の皆様が黙っていないでしょう」
「議会が主力になれば、決まりを変えられるからね」
「議会では度々、三妃様を正室にという案件が議題に挙がっております。お父様の副議長様は乗り気ではないのですけれど、周りが推進派ばかりですから、どうもご自分が反対出来ない雰囲気であるようですね」
ふうん、と
「そんなになりたいならなればいいんじゃないかな」
「・・・なるなれないが問題ではなく。その先が問題なのは
孔雀が悲しそうに呟いた。
議会出の正室等、誰からも守れないのは歴然だ。その気が皇帝にないなら、なおさら。
「それを副議長も心得ているだろうにね」
彼は内密に
結局、人々に責められるのは
相思相愛だとか寵姫宰相等と人々の口に登るのは好ましいが、実害として、
「
「
議員の交流会や社交費は
「私的な政治的交際費はよろしくありませんからね。・・・ところが問題は
チャリティーのパーティは、妃殿下候補の触れ込みで毎回大盛況だ。
「やれやれ。・・・彼女と付き合っているうちは金は出るということだね。・・・正室も妃も無理となれば公式寵姫しかないわけだ。そんなに今風の女性がなってくれるとも考えづらいけど」
心配そうに
「お子様がお産まれになった場合、公式寵姫ですと王夫人のお立場になりますけれど、そのお子様は王族には列せられませんから。それも納得して頂けるとは思えませんし・・・」
「その、彼女の所属するのは、なんて思想の団体だい?」
「女性の社会的地位を保護・支援するというのが目的ですね」
「我が国の女性の立場が男性より下とはひっくり返っても思えないけど・・・」
そもそも女皇帝が存在する時点で、女性の立場が男性より下であるなんて思想こそ、不敬罪だ。
記憶にある母親の
「ええとですね。過剰に戦ったり過度な労働がなくとも、女性の権利や主張が認められる社会を目指しているというものですね。つまり、男性並みでなくとも、女性が保護される社会」
「・・・・それこそ不敬だろう」
この国の今日の女性の立場というのは、彼女たちが戦った末の獲得権だ。
「そもそもきっかけは都度都度の戦争ですからね。女性が戦場で戦ったという事。皇女様どころか女皇帝も戦場に出たのですもの。亡くなった方も多い。結果、女がいなかったら負けたろうと思うような戦争が何度かあって、女性の社会的立場が上昇したのですもの。ただただ社会が放っておいたら平和になり成熟したとかそういう事で今があるわけではない・・・」
その
「男性と女性が何から何まで全く同じとは思わないけれど。男性並みでなくとも女性が保護される社会、というのがそもそも矛盾してるような気がするのは私が意地悪だからでしょうか・・・」
「いや、ぱっと見、口当たりもいいし勇ましいけど、守られたい、愛されたい感が出てる、むしろ古風な感じだよね」
ああ、と
「・・・・そこが
感慨深そうに
「・・・・この際、入宮して頂いたら結構うまくいくかも・・・」
「いやいや、その趣旨を
「