第26話 象牙の塔の悪い鳥
文字数 2,996文字
「
「あーらら、小さな総家令なんて言われてたけど、大きくなったわね」
彼女の母親であ理、今は西の修道院で暮らす家令達の最長老にある
「まあ、久しぶりだこと」
「そうですね。・・・・
孔雀はため息をついたが、兄弟子と姉弟子は吹き出した。
「あれは何の余興だったのかしらねえ。結婚して一ヶ月もしないで離婚」
「結婚生活は正味十日くらいじゃないかな。いやあー。もう、
「救急を呼んだのに、押し入り強盗だと思われて通報されて警察まで来ちゃって・・・」
見舞いに来た
「全く馬鹿馬鹿しい。でも可愛かったわよ。
新郎新婦とお揃い色違いのドレスとタキシードでおめかしをした少年少女の姿はとても人気だった。
「縁起が悪いから二度とそんな話は来ないだろうけどな」
「・・・わかってます・・・」
孔雀は姉弟子好みのコーヒーをいれて、兄弟子と姉弟子に出した。
「あら、
そのカップが当時の引き出物だとわかると、孔雀はまた落ち込んだ。
「
「面白かったわよ。ほら、お湯に入れるとごめんなさいって字が出てくるこんぶ茶とか。まさにお茶を濁したと言うわけねえ」
引き出物を買った同じデパートで、今度は同じ数の離婚のお詫びの品物を買ったのだ。
担当者が、何も聞かないでくれたのが有難かった。
孔雀はおもむろに紙袋を取り出し、中から塗りの木箱を出した。
「・・・・この度は申し訳ありません・・・。あの、天河様に一体何が起きたんですか・・・」
「あらまあ。これカエルマークのごめんねカエルセットじゃない。悪いわねえ」
実家の菓子メーカーで作っている本店限定の謝罪に行く時に持参する際に使い物として購入される高額詰め合わせセットだ。
どんな業種の企業も立場の人間も、これを渡されたら大抵は謝罪を受け入れるという曰く付きの商品。
「それからこちら翡翠様からシャンパンです」
「あらっ。これ今なかなか買えないんでしょ?」
姉弟子が更に何か待っている様子なのに、
「・・・アカデミーの輝かしい未来と人類の発展の為にお使い頂きたいです・・・」
小切手だ。
「まあまあ、総家令のお心遣い痛み入りまぁす」
小切手をさっと素早くデスクの引き出しにしまって鍵までかけた。
「・・・それで、第二太子様なんだけれどね」
やっと本題に入れるようだ。
「アカデミーが、前期四ヶ月、後期四ヶ月その間二ヶ月づつ休みってのは知ってるわよね」
「今は前期なんだけど。バカンスにはちょっと早い。でも
「四ヶ月のうち半分出ないではまずいでしょう。研究員は研究してるから在籍が認められてるんだから」
「学生じゃないから留年はないし。このままじゃ除籍だな」
「そうなるわね、除籍処分も
「・・・・それは、困ります。そもそも
「あの殿下も困ったものよねえ」
どこか可笑しそうに言う。
「
小切手を眺めて
「おいしいコーヒーにお菓子。入手困難な酒。そして、あぶく銭。これに勝る幸せってあるかしらね」
あんた欲深いんだから他にもいろいろあるだろうが、と
大戦後に青春時代を過ごした彼女たちの世代は、自由な風に吹かれて育ち、非常に奔放だ。
その上、戦後処理にかかりきりだった
「
「左岸の
小切手を爪で弾きながら
もしかしてこの金が目的だったのではないだろうか。
自分も含めて家令等、食えない連中ばかりだ。
「・・・果物屋でしょう」
「大体同じよ」
接客側に果物の名前がついた人員の在籍する平たく言うと高級娼館。
そこに入り浸りだというわけか。
「大丈夫よ、老舗だしね。毎月うちの医局の下請けが検査入ってるじゃないの。不名誉な病気にはならないでしょ。ただ。そろそろ連れ出さないとねえ。後で
本気でやりそうだ。
あの難しい年頃の妹弟子はきっとぶっ倒れて保健局を呼んで一斉検査だ。
「・・・笑ったよねえ。去年、
変な病気はやってたらどうしよう!と焦った
あまりの件数に忙殺されて「このサキュバス、死んじまえ!」と
「・・・あーあ、バカだよねえ。面白いったら」
自分の娘のしでかした事なのに、いい根性している。
そもそも家令は親子ではなく兄弟姉妹の関係に着地しているから基本親子関係はどうしても希薄になる。
「昨年ようやく中学生の保健体育を読み終えた
「あらあ。いまだにまだあの子、そんななの。・・・頑張るわねえ、王様。まあ、私はいいんだけどねえ」
口ぶりからすると、
「
ふん、と
「・・・お前が
美貌の悪魔が二人対峙しているわけだから嫌でも空気が張り詰めた。
「姉上。よもやおかしな事考えてないでしょうね」
「おかしなことってなあに?この国で何度も何度も繰り返された、家令主導のクーデターの事かしら」
「