第123話 迦陵頻伽《かりょうびんが》

文字数 8,255文字

 暦の上では春。
だが、この北の果ての地では、冷たい(みぞれ)模様。
荒野に降りしきる霙は、夜半には本格的な雪になるかもしれない。
黒衣の母后は車を降りて立ち尽くしていた。
侍従がはらはらとした様子で車窓からこちらを見ているが、近付くな、何もするな、何も見なかった事にしろと伝えてあるので、決して降りてこようとはしない。
霙の中であるが、そのなんとも存在感のある姿。
しばらくすると、ヘリが近づいてきた。
そこから、やはり黒衣の女が二人降り立って近づいてきた。
「お寒いですよ、勝戴(やつがしら)お姉様」
吹き荒ぶ風雪に負けない大声に、母后が微笑んだ。
孔雀が差し出したよく見ると羽模様が織り込まれた美しい銀色のシルクのショールを受け取る。
軽いが、みっしりと厚手の裏起毛が本物の羽毛のようで暖かい。
「紅水晶様はお健やかでいらっしゃいますか?」
昨年、Q国の皇太子に輿入れした翡翠の皇女。
国を挙げての盛大な婚儀は四日も続いた。
慣れぬ異国と言う事で数ヶ月は猩々朱鷺と緋連雀が滞在したが、今では紅水晶のみがQ国で生活している。
母后が頷いた。
「孫夫婦はとても仲睦まじい様子よ。よく犬を連れてピクニックしているようよ」
孔雀は嬉しそうに微笑んだ。
「・・・全く。アンタも悪質な牽制球投げて来たモンだね。あの面子は何なんだい。息子の嫁入りに随行して来た飛龍(ワイバーン)火喰蜥蜴(サラマンダー)の登場に、ウチのバカ息子が震え上がったもんだよ」
皇帝の若かりし頃の思い出が、しっかり形となって現れたのだから。
孔雀から、皇帝への、"どうかお前の息子がお前と同じような事を私どものお姫様にするような事がありませんように。こんな目に遭わせたくないだろう"というメッセージだ。
「どうぞ陛下が過去の不始末等と思って下さいませんように。私の姉弟子達の存在感を多少はお喜びであればと存じます」
孔雀は、半分は本当にそう思うんですよ、と少し悲しそうに言った。
「正直、嬉しい気持ちもあるのも本当よ。まあ、二人も大層な器量良しであるし。根性はよじれてるけど。お前があの二人を使って、我々をひっかき回さないでくれた事は、お礼を言うわ・・おや」
遅れて、懐かしい顔が近づいてきたのに勝戴が目をすがめた。
「おやまあ、白鷹が飛ばしてきたのかい」
「・・・白鷹お姉様が自分が運転するって聞かないんだもの。運転荒いから、途中でお菓子もお茶もこぼれてしまったわ」
孔雀が膨れていた。
「この子はこれでもステルス乗りです。感覚が違います。恐ろしくてヘリ運転させられませんでしょう。・・・お久しぶりです、勝戴お姉様」
白鷹が女家令の礼をした。
老いてはいるが、全く衰えを感じさせない美しい所作。
勝戴は、白鷹が生まれる前の頃から知っている。その両親もまた家令。どちらも家令として素晴らしい兄弟子と姉弟子であった。
お互いにだいぶ年を取ってしまったけれど。
こうして生き残っているなんて、不思議な気分だ。
「・・・琥珀様と共に別れて以来ね」
「はい。お姉様の情報(おはなし)のおかげで、有利に停戦に持ち込む事ができたのですもの」
「あれは目白お兄様だよ。それを私は伝えただけ。・・・お前は心得(こころえ)の良い家令だね」
当時の密約を思い出して、二人の老女家令が微笑んだ。
勝戴がちょっと手を上げて、霙の向こうを示した。
「・・・・大戦では多くの家令が死んだけど。ここで亡くなったのは。・・・お前の母の(いかる)お姉様と父の黒鷲(くろわし)お兄様、私の母の軍艦鳥(ぐんかんどり)お姉様。目白お兄様の母の扇鳩(おうぎばと)お姉様。総家令だった鶚(みさご》お兄様、百合鴎(ゆりかもめ)お兄様、白鉄(はくてつ)帝様と斑鳩(いかるが)お姉様の子の大猿子(おおましこ)お姉様。大鷲(おおわし)の母の雷鳥(らいちょう)お姉様、弟弟子の青鵐(あおじ)・・・。巫女愛紗(みこあいさ)は大火傷をして片腕と片目を失ったの」
つらつらと名前が出てくる悲惨な内容、沈鬱な声だったけれど、その目は遠く、優しい光を湛えていた。
一人一人の家令の名と死を大切にそう伝える彼女に去来する在りし日の兄弟姉妹達の記憶と心情はいかばかりであろうか。
しかし、いかにその死が凄惨であろうが、それは家令として正しい生き方、死に様である。
「家令だからね。戦場で死ぬのを不満に思う者はいないわ。でも。・・・ここは、ひどかったね・・・。不敬ではあるけれど、黒曜様をお恨み申し上げたのも、一度ではないわ。王族の方も亡くなったしね」
孔雀が頷いた。
「・・・王弟の緑玉髄(りょくぎょくずい)様ですね。侍従だった唐丸(とうまる)お兄様が、お命を守れなかったと死ぬまで悔やんでらしたとか」
唐丸は、茉莉(まつり)の父親に当たる。
「そうね。あのお二人は仲が良かったからね。それにね」
勝戴が楽しい計画を話す様に笑った。
「あの時。黒曜様を廃して、緑玉髄(りょくぎょくずい)様を王に立てて、一気に戦争を終わらせてしまおう、という話が出てたのよ。ああ、廃する、というのは。私が(しい)(たてまつ)る、という事でね」
白鷹は驚いて姉弟子を見た。
まさか、姉弟子から王への反逆罪と暗殺計画を聞く事になろうとは。
「・・・・存じ上げませんでした」
しかし、この姉弟子と、あの兄弟子の目白ならやるかもしれない。
実際に黒曜の総家令になったのは白雁(はくがん)であるが、そもそも目白と勝戴のどちらかが総家令にと候補に上がっていたのだ。
まだ白鷹は子供の頃であったが、黒曜の母皇帝であった金緑(きんりょく)帝と、黒曜の父である総家令の(みさご)がそう話していたのを間違いなく聞いた事がある。
家令が女皇帝との間に子供を成せば、その子は王族に列せられる。
その子が王になる場合、それを面白くないと思うものの方が当たり前に大多数。
それを退け、家令の血を引く皇帝と家令の治世を磐石(ばんじゃく)なものにするためにと考えられていた人選だった。
その説得力がある程、この兄妹は家令として抜群だった。
「・・・まあ、緑髄玉様そのものはさ、飄々(ひょうひょう)とした自由な方だったから。面倒だなって思っていたろうけどね。あの状態でそんなのこっちゃ構ってらんないからねえ」
孔雀が勝戴の風で舞ったショールを掛け直した。
「ああ、ありがとう。なんて軽くて暖かい素材だろうね。・・・緑髄玉様が戦死されて、そこからはもう、酷かったよね。唐丸お兄様はひどい怪我をしたし。・・・唐丸お兄様が生き残ったから国の立て直しに尽力出来たのだろうけど」
あっちもこっちもボロボロでさ、と彼女は面白くなさそうに言った。
「・・・大鷲の事はかわいそうな事をしたね」
白鷹がそこで初めて辛そうに頷いた。
「・・・まだ十三だったあの子まで戦場に駆り出されていてね。神殿(オリュンポス)に、雷鳥お姉様と(はいたか)の父親に当たる青鵐が戦死したのを大鷲が伝えに来た時、私が、小さい子達を連れて宮城から離れろと言ったのよ」
もし自分がそう言わなければ、大鷲に災いは起こらなかったかもしれない。ずっと後悔していた。
後年、真珠が皇帝となり、その傍に大鷲がいると聞いた時、自分と目白はどれだけ嬉しく思ったか。
またその後、二人が亡くなったと知った時、それがどうも国内では記録抹消刑になったようだと聞いた時の悲しみもまた大きなものだった。
「・・・いいえ。家令の子は、鳳雛(ほうすう)とは言いますが、結局は弱い雛鳥。家令をよく思わぬものなんていくらでもおります。あのまま宮城にいたら、川蝉(かわせみ)青鷺(あおさぎ)黄鶲(きびたき)、木ノ葉梟(このはずく)、あの子達はきっと育たなかったでしょう」
白鷹はそう言って首を振った。
白鷹も梟もまた、大鷲には格別に思うものがあったのだ。
あの時、こうすればと思うものが、大鷲には多い。身動きのできない有事であったからこそ悔やまれるのだ。実の姉に当たる巫女愛紗にしても、悔やんだはずだ。
勝戴は白鷹に寄り添う孔雀を眺めた。
ああ、これもまた数奇な身の上の因業娘。
「・・・アカデミーの猩々朱鷺に会ってきたよ。まあ、びっくりこいて、素っ頓狂な声出してたっけねえ」
思い出して可笑しそうに笑う。
数日前、突然アカデミーに現れた自分を、デスクの上に足を上げてビールを瓶ごと飲んで札束を数えていた猩々朱鷺はおかしな悲鳴を上げて迎えた。
三代美貌で知られた女家令だが、それぞれが当然のように癖が強い。
「・・・久しぶりだことねえ」
ぎろりと睨んで、手で軽くデスクを叩くと、猩々朱鷺は慌てて足を下ろし、一瞬で取り澄まして女家令の礼をした。
「・・・お久しぶりでございました。勝戴お姉様。・・・ご活躍は末の妹弟子の孔雀から聞き及んでごさいます事よ」
ふん、と老家令は笑った。
「で?それがその妹弟子をダシにした上がりってこと?ああ、そうかい。今回の胴元はおまえかい。孔雀から第二太子が逃げ帰るかどうかでも賭けてたかい?・・・そうそう、お前のせいで、我が家は大変なことになりましたよ。あの根性曲がりの火喰蜥蜴(サラマンダー)は、ウチのバカ息子の子だってぇ?」
「・・・それは・・・。お姉様、お言葉ではございますけれど、まず、あの娘が根性曲がりなのは私のせいじゃありませんからね。それに・・・私だって思いもかけないことで、それは当時は悩み苦しみ、女一人、大変でしたのよ。ねぇ、お姉様・・・!?」
女が一人で産んで育てる決断をしたんですのよ、とはらはらと涙を流す。
「は!バカ言ってんじゃないよ!?女家令が子供産んだら、男と女が、三:七で恩給が出るじゃないか。しかもあんたは父親無しで産んだんだ。狙い通りでお前の総取りじゃないかよ。大体、女家令だろ、産みっ放しで、子供はあとは宮廷でナニーが育てたんだろ。鳥だってエサはせっせと雛に運ぶんだよ、お前、鳥より悪いよ。全く家令は魚か虫だわ!」
叱りつけられて。猩々朱鷺が憎々し気に舌打ちした。
涙などはからっからに乾いていた。
じろりと勝戴が一瞥(いちべつ)した。
「どうせ、私と目白お兄様を国に戻すか、出来なきゃ殺してこいとでも言われて。うまくいかなくて代わりに梟あたりと交渉したんじゃないのかい。家令はいつだって人手不足だもの。人員自家生産して来たとなりゃ、梟だって仕方ないとなるものね」
猩々朱鷺は、母親似の美貌の顔を般若のように歪めて、小さく毒づいた。
思い出して、勝戴が笑った。
話を聞いて白鷹が頭が痛いわとため息をついた。
「何か失礼な事を申し上げませんでしたか」
「ばばあのばばあ、死にくされ、とか言ってたよ」
白鷹は、ああ、後で怒鳴りつけてやろう、と呟いた。
「・・・私共が戦後処理にかかり切りの時期でしたので、あの世代は皆、国外で学ばせたのです。明らかに勉強以外の事もすっかり身につけて育ってしまったものですから。いつまでも自由で落ち着きがなくて困ります。・・・この度は勝戴お姉様にご足労頂きまして・・・」
「ううん。いいよ。・・・久しぶりに巫女愛紗にも会いたかったしね」
孔雀が心配そうに顔を向けた。
修道院の姉弟子の容体が悪いのは聞いていた。
「・・・・だいぶ悪いね。孔雀はしばらく予定を詰めないようにしなさいね。会いに行ける様にね」
はい、と孔雀が頷いた。
末期が近い、という事だろう。
「・・・お前にはかわいそうだけれども・・・」
勝戴は、また家令の最後を看取らねばならない末の妹弟子を慮った。
いえ、と白鷹がそれを遮った。
「それが総家令の役目です。・・・それにこの子は巫女家令。神殿(オリュンポス)で神官長の立場にいます。望めば大神官にもなれるでしょう。・・・巫女愛紗お姉様にはきっと救いになるでしょう」
死に行く者に救いになるような魔法を使えるということか。
へえ、と勝戴は孔雀を見た。
この変わった葡萄飴のような目をした末の妹弟子が神官長。
そうか、と勝戴は頷いた。
お前、天眼だものね、と孔雀の額をちょんと指で示す。
「難儀な事ね。ああ、可哀想だよ、やっぱり。・・・大鷲の事、巫女愛紗が喜んでいたよ」
姿を消した大鷲を探し出した白鷹と梟の執念と言えばそれまでだが、それは間違いなく愛情だ。
白鷹と梟が自分達で手を下した弟弟子の破滅に、後悔が無いわけがない。
勝戴が最後に大鷲に会ったのは、鷂の父親である青鵐の戦死を神殿に伝えにやってきた時だ。
その時、神官見習いだった鷂の母親が、泣き崩れたのを昨日の事のように思い出す。
「副修道院長様はお元気でらっしゃいましたか」
孔雀が尋ねると勝戴が笑った。
「元気だよ。会えて良かったわ。巫女愛紗、何もしないから、あの子が居てくれて助かったわね!」
「本当、ありがたい話。巫女愛紗お姉様、ズボラだから。・・・全く巫女が修道女ってどういうわけなんだろうねえ・・・」
白鷹が呆れてため息をついた。
元が聖堂(ヴァルハラ)で司祭だった巫女愛紗はわかるが、当時、自分と同じ立場の巫女見習いであった鷂の母親、当時は若鮎(わかあゆ)と言ったが、彼女まで修道院に身を寄せ、しかも頭角を表して出世している。
神殿(オリュンポス)としては惜しい人材を取られましたよね」
「本当よ。若鮎はなかなかいい神官候補だったんだよ」
と孔雀と白鷹が人手不足についてため息をついた。
勝戴が、それはほら、と言い出した。
「私が行けと言ったんだもの。だってまさか神殿で子供が出来るのもまあアレだけど、お産はさすがにちょっとなあと思うじゃない?」
妹弟子二人が絶句した。
「まあ、それはいいとして。猩々朱鷺に、国際協力に於ける共同開発研究機構というのを作らせたよ。名前なんかなんだっていいけれど。名簿にはね、あの皇女(真鶴)様と第二太子の名前も載ってる。だから、最初は出向という形でスコレーに収まったことになっている。これでアカデミーの顔も立つだろ」
孔雀はほっとして、勝戴に礼を述べた。
「アンタはどうも実ばかり見がちだからね。花や面子というのを立場と気持ちと置き換えてみりゃわかるだろ。アンタも相当ひどいけど、結構皆、ヒヤヒヤ綱渡りしながら生きてんだよ」
自分の立場や見栄えを二の次に、ある程度捨て身でやってきた孔雀にとっては、猩々朱鷺ばかりではないが、他人がなぜそれ程、面子にこだわるのかが感覚として理解する事が弱い。
それでやってこれたのは、何より道理も引っ込む皇帝の寵愛がある、という一点が大きい。それが家令の仕事のしやすさを求めた実用としての多少誇張された演出であろうが、実際そうであろうが、それだけ免罪符であり協力な武器であるのだ。
「後で猩々朱鷺が来たら、よくよく話しなさい。あっちには、人の話を聞けと言ったし、アンタは自分の形にしたいことをちゃんと説明するの。分かったね。いいかい。家令以外の都合より、まずは自分たちの都合を優先させな、あたしらは家令だよ」
孔雀は、申し訳なさそうに頷いた。
「まあ、この白鷹とあんなとんでもない皇女様に育てられたってんだからあんたも気の毒だ。・・・ふふ。おっかしいよねえ。あの皇女様、突然やってきて、巫女愛紗が死にかけてる今アンタが長老でしょう。妹達が嫁や妾に行った先の都合で対立して大変なんだよ。なんとかしてよ。それと巫女愛紗が死ぬ前にちょっと会っといたら、とか言うんだもの。あの無礼な感じ、王族だよねえ。全く。琥珀様はもうちょっとおすまししてたもんだけど。・・・全く王族の傍若無人さったら」
白鷹も吹き出した。
「懐かしいですね。お姉様」
「本当だよ。全く・・・。さて、妹家令、スコレーの最近の成果は?」
孔雀がはい、と手を打った。
「温泉掘ったら出たんです。来月から温泉施設着工ですよ」
「まあ、いいこと」
風雪のさらに先を目をすがめて見ながら三人の女家令が楽し気に笑った。
吹雪の隙間からもう一台ヘリが到着した。
家令達が半分兄弟喧嘩しながら降りてきた。
狭いだの、太ったんだろとか、運転が荒いだのとにかく文句が多い。
「呆れた。居るやつらあらかた来ちゃったんじゃないの」
妹弟子と弟弟子の礼を受けながら、勝戴がため息をついた。
「留守番は誰がしてるんだい」
「天河様と真鶴お姉様です。考えただけでも頭痛いわ。・・・孔雀、早くしな」
金糸雀はそう言うと手早く孔雀の着替えを手伝おうと近づいた。
脱がせるのをためらわれる程の寒さだが、孔雀はためらわずにぱっと上着を脱いだ。
「寒くないの?バカみたいね。あんた弱カスなのに。綿入れ半纏(はんてん)とか着たら?」
緋連雀がそう言った。彼女なりの、寒いのに可哀想、という表現だ。
美しく出来上がった神楽(かぐら)姿の孔雀と仏法僧が、微笑みあった。
一対の神楽仕様に勝戴は目を細めたのに、白鷹もまた微笑んだ。
「・・・思い出します。黒曜帝様のお母上様の金緑帝様の時代、目白お兄様と勝戴お姉様がよく宮城のご展覧で舞ってらした」
「あの頃は、御展試合やら、何かと催しが多かったからね」
兄弟子である総家令が、女皇帝の為にとあれこれ趣向を凝らしたのだ。
金緑女皇帝は、美しかったが明朗なタイプではなく、悪く言えば抑鬱(よくうつ)的。
その女皇帝の機嫌を取るべく、あれこれと気をまわす兄弟子を、宮廷の人々まるで大昔の逸話にある笑わないお妃様の為に次から次へと娯楽を提供した王のようだと宮廷の人は揶揄したものだ。
風雪の中、孔雀の歌声が響いた。
独特の響きと音程はまるで人間の声とは思えなかった。
迦陵頻伽(かりょうびんが)の歌だね。何でも使う気かい。・・・・鎮魂ではなく、極楽へ引っ張って行こうってわけかい」
鎮魂、慰霊。その為の舞のつもりだったが。
この場所で命を燃やした兄弟子や姉弟子、それから幾多の人間の魂鎮めにと家令達は集まったわけだが。
孔雀は鎮魂では済まなかったようだ。
あの妹弟子は案外強引だが確かに優秀な神官らしい。
ちゃんと感じるのは多分自分一人だろうけれど、先ほどから黄金色の花がこれでもかと舞っているのだ。むせ返るほどの香気は、生きている人間ではなく、死者に対する物。
花の香りなのだろうか。薔薇のような、なんとも我を忘れるほどの香りだ。
(ハス)だよ」
勝戴が呟いた。
勝戴の目には、少し離れて舞う二人の姿は、風雪ではなく、輝かしい花の波が押し寄せていて、今やしっかりと確認することは難しい。
自分の次に神官としての能力の高いのは白鷹だが、彼女にはきっと、パチパチと小さな雷光が弾けているように映っている程度だろうし。
他の者にはきっと風雪が強くなったか、という程度だろう。
言うなればこれは孔雀がこの為に綿密に仕込んだイメージの網。
現実とすら思うほどのドットの細かさで描き上げられた点描画のようなものだ。
驚くべき想像力と集中力。
死者は迦陵頻伽の歌声に誘われて、黄金色の花びらの波に乗って、帰天する、というわけだ。
死者の乗る花筏の水先案内人は仏法僧だ。
孔雀が歌い舞いながら、仏法僧に美しい(こん)を手渡した。
先の部分が白玉(はくぎょく)で出来た筒状に咲く花の細工になっているものだ。
「・・・あれ斑鳩(いかるが)お姉様の錫杖(しゃくじょう)だよ。棍に直したのかい。宮城のどこ探しても無かったのに。どこにあったの?」
勝戴が驚いて呟いた。
百年に一人と言われる神官であった姉弟子が愛用していた祭具だ。
そうでしたか、と白鷹もまた驚いたように言い、ちょっと言葉を溜めてから白状した。
「・・・ガーデンの物置にありましたとかで」
「物置ぃ?」
「・・・あの子、その、物置が反省部屋といいますか・・・」
勝戴がため息をついた。
この妹弟子が、叱りつけてよく放り込んでいた、ということだ。
「泣きながら片づけしているうちに見つけたようです」
白鷹お姉様これ何?と見せられ、過去に使っていた祭具だとはわかったので、作り直させて孔雀に与えたのだ。
孔雀から渡された棍で仏法僧がとんと大地を叩くと、黄金の花筏(はないかだ)が竜巻のように舞い上がった。
孔雀は空を仰いで歌いながら、見届けて微笑んだ。
よかった、うまくいった、という顔をしている。
大盤振る舞いだこと、と勝戴はつぶやいた。
「・・・どうでしょうか」
白鷹がそっと姉弟子に話しかけた。
「お前の見立ててで間違いないね。大神官になれる」
姉弟子の答えに、白鷹は頷いた。
勝戴が、首を振った。
「・・・同時期に龍現が二人。天眼が三人。・・・一人は大神官になれる程の天眼。なんてろくでもないんだろ。・・・ああ、嵐が来ないでは済まないだろうね」
自分達の二代上の世代に、やはり龍現と天眼が同時期に複数現れた。
当時、家令と王族がそれぞれ対立し、宮廷は荒れに荒れ、内紛にまで発展したのだ。結局、関係した王族達と家令達は死刑より重い記録抹消罪に処された。
「・・・王族は。家令にはどうする事もできないから。一番良いのはなるべく早く翡翠に死んで貰って。あの子は、大神官になれる器なら不幸中の幸いだ。大神官にしてしまって、早く閉じ込めちゃうべきだよ。・・・その後は死ぬのを待つしかないね」
自分で言っていて、暗い気分になるが。
この身も神殿に使えた神官だ。
大神官になろうとした事もある。結局放棄してしまったけれど。
あの奥の院の全身が総毛立つ程の異質な雰囲気を思い出し、勝戴はそっとため息をついた。
兄弟姉妹を、あそこに一生閉じ込めろ、と言う日が来るなんて。
ええ、と白鷹がもう一度頷いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

⁂孔雀《くじゃく》  宮廷家令

十歳で問答無用で宮廷家令に召し上げられる。元は継室候補群十一家のうちの棕梠家の生まれ。(実績が低いので宮廷での信用は低い)。 本名は棕梠 杏花春雨《しゅろ きょうかしゅんう》。

皇帝である翡翠帝により、十五歳で宮宰である総家令を賜る。

実家は、ギルド筋と言われる商業経済活動を生業とする立場にある。砂糖商から身を起こし現在は製菓業。異種多種経営で建築資材、水産加工品、食品流通等様々であるが、今も昔もカステラが一番有名。通称カエルマーク。

国を超えて経済活動をするギルド筋の人間には珍しくないが、どこかで外国の血が混ざっていて、青菫色の瞳をしている。

棕梠家は双子が多く生まれる家で、孔雀はいわゆるバニシングツイン(周産期で双子が一人になってしまう。生き残り)。

その場合、名前を二人分つけるという習慣があり、杏花・春雨という変わった名前になっている。

海軍所属。十二歳から軍属に就く。

金糸雀、緋連雀と共に女官試験にパスしているので、宮廷では三人官女と呼ばれている。(陰ではゴーゴン姉妹と揶揄されている)。

小さな頃から軍で働いていたので、自国ではヒヨコちゃんやフラッフィー等と呼ばれていたが、後に悪魔の王《ルシファー》という渾名で敵国から認識されるようになる。

神殿の神祇官。大神官になれる素養があるとされる。

異能を持つ天眼(結構いる)の生まれ。

個性の強い大人に振り回されて奮闘中。

実用性のみの特技はいろいろあるが、マグロの解体が出来る。

頑健な者ばかりの他の家令より多少虚弱でよく寝込む。

⁂金糸雀《カナリア》  宮廷家令

母親が女家令の青鷺《あおさぎ》。父親が梟《ふくろう》。生まれながらの宮廷家令の身分。

海外の寄宿舎育ちで、幼少から天才少女と誉高く、家令の身分ながら、官僚試験の殿試を二位である榜眼《ぼうがん》でパスしている。また女官試験もパスしているので、孔雀、緋連雀と共に三人官女と呼ばれている。(裏ではゴーゴン姉妹と揶揄されている)

軍事法廷専門の弁護士。

陸軍所属。十ニ羽の五色鶸《トゥェルブ・ゴールドフィンチ》部隊を率いる。

渾名は、人食いワニ《マンイーター》。

宮廷では、報道官を務め、また後宮内の服飾の管理、軍の装備品の開発を担当している。

神殿《オリュンポス》の神祇官。

ボウルルームダンスのチャンピオン保持者であり、アスリートタイプ。

真鶴に唆されて、白鴎と一ヶ月だけ結婚していた。結婚生活は正味十日程度。

白鴎の浮気に激昂して、白鴎を半殺しにして病院送りにして、一人で新婚旅行を楽しみ現地でデートクラブを経営して荒稼ぎしていた。

結婚式の準備と離婚のお詫び行脚を丸投げされた孔雀から恨まれている。

⁂緋連雀《ひれんじゃく》 宮廷家令

母親が女家令の生まれながらの宮廷家令の身分。三代続く女家令。

祖母は大戦の折に戦歴を称えられ、当時の黒曜帝の公式寵姫でもあった美貌の女家令、巫女愛紗《みこあいさ》。

母親は、アカデミー長の猩々朱鷺《しょうじょうとき》。

宮廷で育った為、自他共に認める美貌と教養を鼻にかけている節があり、「宮廷育ちの根性曲がり」と陰口を叩かれている。

少女の頃から宮廷画家であり人間国宝の画聖・淡雪を師匠に日本画を修練し、雅号を持つ逸材。

宮廷に関わる男を手玉に取り一財産築きつつある。

孔雀、金糸雀と共に、女官試験もパスしているので、三人官女とも呼ばれる。(裏では、ゴーゴン姉妹と揶揄されている)

海軍所属の出世頭。渾名は、火喰蜥蜴《サラマンダー》。

聖堂《ヴァルハラ》所属の司祭。

バレエのエトワールであり、招かれて海外公演もこなす。

第二太子の天河曰く、「殺し屋のようなオデット姫」。

外見は華やかな美貌であるが、中身は中年男性に寄りがちな食生活と生活態度であり、軍隊の猛者がドン引く程の下ネタが得意。

⁂白鷹《はくたか》   宮廷家令

翡翠帝の母親である琥珀女皇帝の総家令であった。

現在は離宮で琥珀のもとに仕えているが、宮廷での影響力は未だ健在。

若き時代、皇女であった琥珀と共に大戦の前線を駆け抜けた強者であり、大戦で多くの家令が戦死した中で、数少ない生き残り。王族のうちでも皇統下位であった琥珀の帝位簒奪に尽力した。

後進に対して教育熱心であるが、性格は非常に自分勝手で激しいものがある。

大戦当時の神殿の神官長でもあった王族に、弟弟子である大鷲《おおわし》が監禁されていたのを不服に、報復の為に神殿を焼き討ちした過去があり恐れられている。

人肉を屠るダキニ、人肉を喰らうダキニと呼ばれている。

子供の孔雀に目をつけて、問答無用で召し上げた。

現在も家令達を統率している。

神殿《オリュンポス》の神祇官。

⁂梟《ふくろう》   宮廷家令

翡翠の叔父、琥珀の弟に当たる瑪瑙帝の総家令。

白鷹と共に、孔雀を宮廷家令に召し上げた。

金糸雀の実父であり、青鷺の元夫。

大戦の折に、若くして従軍した生き残り。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

武闘派の白鷹に対して、梟は陰険な策謀家で知られていて、宮廷ではその情報を掌握して恐れられている。

渾名は死神。

⁂雉鳩《きじばと》    宮廷家令

父親が王族、母親が琥珀帝の父親である黒曜帝の総家令の白雁《はくがん》と黒曜帝の皇妹の娘。

宮廷では緋連雀と共に美貌を知られている。ウェストは緋連雀より細い。

アカデミーで医師の資格を取っているが精神科医で臨床経験はない。

海軍所属。渾名は大海蛇《シーサーペント》。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

書道の大家。

本名 羽黒山 稼頭男《はぐろやま かずお》

自分の美意識に合わず、本名を隠したがる。


⁂白鴎《はくおう》    宮廷家令

ギルド筋出身。金融業を生業とする、ギルド長を務める百目木《どうめき》家の次男坊。

金融、マスコミ、宗教関係は正室、継室共に入宮は出来ない規則があり、継室候補群ではない。

海外に留学中に己の悪徳の致すところで勾留の憂き目に遭い、父親が梟に泣きつき、裁判にて無罪となる。

家令にする事を条件とされていた為に、放免後そのまま宮廷家令の身分となる。

陸軍所属。作戦中に部隊がほぼ壊滅状態となり、軍属から離れている。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

真鶴に唆されて、短期間だが金糸雀と結婚していたが、すぐに離婚。

金糸雀に半殺しにされて入院した経験がある。

留学中に伝統ある料理学校と三ツ星シェフの元で修行をしたオーベルジュでの勤務の経験もあるシェフでもある。

本名 百目木 円《どうめき まどか》


⁂大嘴《おおはし》   宮廷家令

聖堂《ヴァルハラ》の教皇座を出している家柄の出身の三男坊。

大嘴を家令にする事を条件に、梟によって、議会に置いて大戦で失われた大聖堂の再建予算案が通った。

空軍所属。聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

付き合いがよく、上の世代に育児放棄されつつも孔雀と燕とガーデンで自活した経験がある。

翡翠の第二太子である天河《てんが》と共に、一時海外で共に生活をしていた。後に正式な侍従となる。

本名 英 三郎《はなぶさ さぶろう》

⁂燕《つばめ》   宮廷家令

宮廷家令。

母親が女家令であり梟の実妹の木ノ葉梟《このはづく》。

宮廷育ちで、幼い頃から宮廷で使い走りをしていた。

家令の教育期間であるガーデンに行った途端に、上の世代から育児放棄されて孔雀と大嘴と自活する。

実母も、周りの姉弟子兄弟子も強烈な為、家令の中でもマイペースな孔雀と大嘴との擬似家庭を結構気に入っていた。

⌘翡翠《ひすい》   王族・皇帝

琥珀女皇帝と継室であった椿《つばき》との間の第二太子。

叔父の瑪瑙の跡を継いで皇帝となる。

琥珀の時代の皇帝であった長兄の真珠帝が背信罪となり、琥珀帝と当時の総家令の白鷹により、侍従であった家令の川蝉《かわせみ》と共に、討伐の命を受けた。

アカデミーでドクターの資格を修めたが、臨床の経験はない。

王族の慣例に則り、十五で婚姻。正室である元老院筋の芙蓉《ふよう》皇后。第二妃として、ギルド筋の継室の木蓮《もくれん》、三妃として、議員筋の紅小百合《紅小百合》がいる。

それぞれの后妃との間に、皇太子の藍晶《らんしょう》、第二太子の天河《てんが》、皇女の紅水晶がいる。


孔雀を総家令に任命した。

孔雀の若さに注目した宮廷の人間から、特殊な性癖の持ち主なのかと噂される。

半分、妹である真鶴、翠玉皇女への当て付けで孔雀を総家令に任命して、伽に招いた。

残り半分の、都合の人事としての総家令任命であったが、徐々に孔雀との間に真摯な関係を結ぶようになる。

人々から愛隣王という称号で呼ばれるようになる。

外見の物腰が柔らかで繊細に見えるが、内面は結構雑

母親である琥珀にそもそもあまり親近感はない。

⌘藍晶《らんしょう》   王族・皇太子

翡翠と、芙蓉皇后の間の皇太子。

母が元老院筋の大貴族の出なので、元老院派の支持も篤く、またリベラル派でもあり若手議員からも信奉されている。

生来の貴公子であり、国内外からも人気がある。

社交界の華であり、数多くの浮名を流しているがそれもまた人気。

第一子、皇太子が後継とは限らない王朝において、琥珀帝によって生まれながらに皇位を約束された「幸福な王子」。

本来は十代半ばで婚姻を済ませているはずだが、不服としていたが孔雀により延期となり、また宮宰としてたち働く孔雀を、気の毒に思いながらも都合のよい総家令として満足している。

⌘天河《てんが》    王族・第二太子

翡翠と二妃・木蓮の間の第二太子。母親がギルド筋であり、特殊な案件で早逝した為、宮廷では冷遇されていた。

アカデミーで、宇宙物理学を専攻して、研究と共に教鞭にも立っている。

母親の死後、一時期、ギルド長を辞した祖母と、アカデミー教授であった祖父と共に海外で暮らしていた。

大嘴とは兄弟のように育つ、遊び仲間でもある。

少年の頃、孔雀を気に入り、母親である二妃と翡翠の侍従であった川蝉が宮廷に招こうとしていたが、孔雀が家令となり、総家令として宮廷に仕える事になったのを不服に思っていて、原因であり無神経な言動をする梟を恨んでいる。

王族に見られる、異能の龍現の生まれとされるが特に何か特別な才能は見られない。

父親である翡翠と逆で、見た目は鷹揚だが、中身が神経質なところがある。


母親が亡くなった宮城から距離を取って成長し、更に孔雀が総家令になった事で更に足が遠のいていたがアカデミーで問題行動を度々起こしていたが、孔雀が歩み寄った事で、徐々に宮廷や家令達と関わるようになる。

浮世離れたした人間の多い宮廷においては数少ない常識人であり、その点から苦労性である。

⁂鵟《のすり》    宮廷家令

本名・篠山 茜《しのやま あかね》。高校生。母親と母親の夫、その妹と暮らしていた。実父は死亡。家庭環境としては恵まれたものではなかった。

父方の曽祖父が宮廷家令であるとの事で、スカウトされ、了承する。

戸惑いながらも、少しずつ家令としての生活に希望と自意識を見出す。

家令としての孔雀に興味を持ち、あれこれと物語を聞かされる事になる。

⁂黄鶲《きびたき》    宮廷家令

川蝉《かわせみ》の妻であり、尉鶲《じょうびたき》の実母。

翡翠により宮廷の終身典医としての地位を与えられている。

二妃が死亡し、他の同世代の家令達が宮城から放逐された時も、終身典医の地位の為に守られた。

アカデミーの医局に勤めるドクターでもある。

前線で医療行為を行うNPO法人も運営している。

趣味は保護猫の去勢。

若かりし頃に一時期、翡翠と関係があった。

宮廷で、青鷺《あおさぎ》、鷂《はいたか》、猩々朱鷺《しょうじょうとき》、木ノ葉梟《このはずく》と共に、妖精《フェアリー》と呼ばれた世代。陰では小鬼《ゴブリン》と揶揄されていた。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

⌘芙蓉《ふよう》   王族・皇后

 元老院筋の大貴族から入宮した翡翠の正室、皇后。

皇太子である藍晶の母。

後宮の螺鈿《らでん》宮の主。

以前は青鷺が侍従として仕えていた。


前元老院長の親族であり、養女と言う形での入宮であったが、実は、真珠帝と皇后出会った薔薇《そうび》との娘である碧玉公主。

⁂青鷺《あおさぎ》   宮廷家令

金糸雀の実母、梟の元妻。

宮廷で最も思慮深く上品で教養のある女家令と言われている。

芙蓉皇后の侍従として仕えていた。

二妃が亡くなった際、不手際を咎められて白鷹から宮城から放逐されたうちの一人。

孔雀が総家令に就任した際に、恩赦として復位を賜ったが、以来、宮城には戻っていない。

海兵隊所属。

現在、海兵隊の責任者として前線に勤務している。

外見も物事も淑やかなのだが、やはり凶暴な面があり、家令達からはお上品機雷と呼ばれている。

渾名はワイバーン。

黄鶲、猩々朱鷺、鷂、木ノ葉梟と共に、妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた世代。

⁂鷂《はいたか》    宮廷家令

神殿《オリュンポス》の神祇官。

陸軍所属。

父親が大戦で戦死した家令の青鵐《あおじ》。母親が西の副修道院長。

聖堂《ヴァルハラ》の元枢機卿(大嘴の長兄)と深い中になり、問題となった為に現在、海外の機関に出向中、と言う事になっている。

二妃が亡くなった際に、責任を問われて城から放逐された一人。

黄鶲、青鷺、猩々朱鷺、木ノ葉梟と共に、宮廷で妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた世代。

真珠帝の公式寵姫でもあった。

⁂瑠璃鶲《るりびたき》   宮廷家令

翡翠の祖父にあたる黒曜帝の総家令代理を務めた。

黒曜帝が退位後は、宮城から離れアカデミーにて研究の日々に戻った。

元アカデミー長。現在は医聖の称号を得て、アカデミーの精神的支柱。

⁂猩々朱鷺《しょうじょうとき》 宮廷家令

現アカデミー長。美貌で知られる女家令。

母親は巫女秋沙であり、緋連雀は娘。

母親が黒曜帝の公式寵姫であった事から、猩々朱鷺はその娘ではないかと言われている。

(女家令から生まれた者は生まれながらに家令の身分なので、父親の存在は不問でありあまり頓着されない)

陸軍所属。渾名はワイバーン。

聖堂《ヴァルハラ》所属の司祭。


かつて翡翠の第二妃であった木蓮付きであったが、彼女の死の責任を追及されて宮城から放逐された世代の1人。

後、アカデミーで天河を支えた。


真珠帝と大鷲総家令の時代に宮廷で、青鷺、黄鶲、鷂、木ノ葉梟と共に、妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた。

大嘴以上の大喰らいである。

⁂木ノ葉梟《このはずく》 宮廷家令

梟の実妹。

王立図書文書館統括司書。

翡翠の二妃の死によって責任を問われて宮城から放逐された世代の末妹。

空軍所属。聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

燕の実母。

白鷹所有の別荘で燕を産んだ。

家令には珍しく小柄だが、1番血の気が多く、小型爆弾と呼ばれている。


真珠帝と大鷲総家令の時代に、青鷺、黄鶲、猩々朱鷺、鷂と共に、宮廷で妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた。

⁂鸚鵡《おうむ》 宮廷家令

本名、五百旗頭《いおきべ》 綾《あや》。

元は宮廷近衛兵、禁軍である軍閥の生まれ。母親が前女官長であったので、姉である現女官長と、白鷹の離宮に出入りを許されていた。真鶴のファン。真鶴が家令の身分に処される時に自らも家令になってしまった。

アカデミーの医学部出身で、茉莉のもとで東洋医学を納めた。

真鶴の為に家政学部も通信で卒業。


現在、前線の野戦病院勤務。

⁂川蝉《かわせみ》  宮廷家令

翡翠の元侍従。離宮に移った瑪瑙帝と梟総家令の時代、当時皇太子であった翡翠と宮城に残り、総家令代理を務めた。

翡翠と共に真珠帝追討の指揮を執った。

ニ妃の死の責任を負い、宮城を放逐された世代。軍中央《セントラル》所属であったが軍属、更に聖堂《ヴァルハラ》の司祭の立場も解かれた。

家令の特殊運用組織であるエトピリカに出向し海外での勤務に当たる。


⁂真鶴《まづる》  宮廷家令

美貌と知性が抜群で、人を惹きつける魅力があり本人もそれは十分自覚している。

なんでもできるし、なんでもやる。

女神のような、または悪魔のようなと評される。

面倒見が良く、弟妹弟子からも慕われている。

人類に貢献する程の研究《ナンバリング》を多数所有。

アカデミー特別委員の1人。

海軍所属。演習で人喰い羆を仕留めた事から、渾名は羆殺し、レディ・タイガー。

神殿《オリュンポス》の神祇官と聖堂《ヴァルハラ》の司祭どちらも務める。


本来は琥珀帝が離宮で産んだ最後の娘であり、翠玉皇女の身分であった。

後見人であった長兄の真珠帝が背信で処された煽りをくって、家令の身分から家令となる。

家令の生活を本人は割と気に入っている。


⁑茉莉《まつり》  

家令の父親とそうではない母親を持ち、家令にはならない事を決めた"蝙蝠"《こうもり》と呼ばれる存在。

家令名は、千鳥《ちどり》。

父親は大戦の生き残りで戦後復興に尽力した唐丸《とうまる》。母親は貴族筋の女官で琥珀帝に仕えた。

翡翠の友人。

アカデミーで東洋医学を研究して学位を取り、教育に力を入れている。鸚鵡も教え子の一人。

家令と反目する軍中央《セントラル》に所属している。

⁂尉鶲《じょうびたき》 宮廷家令見習い

黄鶲と川蝉の息子。

10歳になり、宮城や離宮で家令見習いとして使い走りを始めたばかり。

現在、家令の中で1番の年少者。


§淡雪《あわゆき》  宮廷画家

本名 東雲《しののめ》淡雪

アカデミーに所属する画家。

アカデミー特別委員。

人間国宝、画聖の称号を持つ。

翡翠の学友。

緋連雀の師匠。

作品は宮廷でも人気がある。

継室が欲しがった作品を白鷹も欲しがり、琥珀が倍の値段で買い上げ白鷹に与え騒動になった逸話がある。

本人はあまり物事にこだわらないたちなので、人間関係に巻き込まれる事もなく生きている癒し系。

放浪癖があり、あちこちスケッチ旅行に出かけては戻って来ない。

宮廷画家として大聖堂修復の指揮を執った。

§路峯 隼 《ろほう はやと》 

元老院次席であり、父は元老院長であった。

翡翠の正室、皇后の芙蓉を出した大貴族であり屈指の名門出身。

父の後妻として雉鳩の母が路峯家に入っている。

翡翠の学友。

皇太子である藍晶を支持している。

議員派と親しい皇太子を危惧している。

⌘鈴蘭《すずらん》   皇太子正室

元老院派 比嘉家の二の姫。

孔雀の推薦で、藍晶の正室として後宮に入宮した。

快活で朗らかであり、皇太子宮である象牙宮の若き女主人を務めている。


§揚羽《あげは》    女官長

本名、済 更紗《わたり さらさ》。

旧姓 五百旗頭《いおきべ》。

祖母、母と女官長を三代務める。

宮廷軍閥、五百旗頭家の出身。鸚鵡の姉。

女官は、上位五役までが蝶の名前を戴く。

最も高位の女官長 揚羽。

母もまた女官長であった事もあり、鸚鵡と共に子供の時から琥珀の離宮に出入りしていた。

真鶴とは幼馴染。

⌘紅小百合《べにさゆり》 王族•第三妃

翡翠の三妃。継室候補群議員派の出身。

本名 渡良瀬 香織《わたらせ かおり》

リベラル派だった瑪瑙帝の推薦で入宮した。

紅水晶皇女の母。

正室の地位を望んでいる。

身近に家令を置く事を好まない。

正室、ニ妃が不在につき国内外でファーストレディとして活躍。

⌘木蓮《もくれん》 王族•第二妃

翡翠のニ妃。継室候補群ギルド派出身。

天河の母。

本名 縞野 乃衣美《しまの のえみ》。

母がギルド長、父がアカデミーの教授で外国人であった為、海外で生まれ育った。

天河が10代のうちに宮城で亡くなった。

⌘撫子《なでしこ》   皇帝四妃

本名 一宮 絲子《いちみや いとこ》

元老院筋の貴族の正室候補群である一宮家から翡翠に入宮した。

翡翠帝以外も、皇太子の藍晶の正室、継室、第二太子天河の正室、といずれの縁談にも名前が挙がる程の名家。

食が細く、厨房を預かる白鴎と、孔雀を悩ませている。

§紋白《もんしろ》   副女官長

本名 鏡 華《かがみ はな》

女官の五役の一人。

没落貴族の出身で、女官試験を受けて登用された。

結婚時に一度城を下がったが、その後離婚して復職した。

子供が宮城内のキンダーガルデンで育ち、同じ宮城内にある舎宅に暮らしている。

当初は孔雀に反感を持っていたが、現在では好意的。

同じ貴族出身の四妃に複雑な感情を抱いている。

§銀椋鳥《ぎんむくどり》 宮廷家令

本名 エマ•ダミニ•タシオニ 

母親はアカデミー教授のキーヴァ•タシオニ。

10代でアカデミーに入学を許された天才少女。孔雀が母親のタシオニと親しくなり、孔雀とも友達になる。

家令逹のアカデミーでの宿舎である"止まり木"にもよく出入りをしていた為、天河や大嘴とも親しくなった。

大嘴に憧れて17歳で家令になった。

真鶴を強く意識している。

茜が家令になってくれて嬉しく思っている。

§ヤドヴィカ・タシオニ  アカデミー教授・動物学者

アカデミーで動物学、獣医学を研究、教鞭をとる教授。エマの母親。

アカデミー特別委員の1人。

優秀で、トリッキーなところがある。

アカデミーでの孔雀の師となる。

エマに家令になればいいのにとアドバイスをし、心配だと渋る孔雀を説得した。

⁑ ヘルムート・ネイガウス  A国将校

アカデミーに属するA国将校。

天河の友人。

お互い前線を挟み睨み合う仮想敵国の立場だが、アカデミーでは政治的思惑は不問の為、複雑ながら親交は深い。

A国は皆徴兵制がある為、少年の頃から兵役の経験がある。

軍人一家であり、海軍に在籍している。

◇戴勝《やつがしら》

元敵国•現仮想敵国のQ国母后。

本来は家令の戴勝。

一時、神殿《オリュンポス》で大神官を目指して潔斎に入っていたが、放り出して戦場に戻る。

大戦中に戦死したと記録されているが、実際はQ国で拘束され殺されたとされた目白と共に幼い王の義母として活躍し辣腕を奮っていた。

大神官を目指した事から、"神の花嫁"とも呼ばれ、また、“地獄の門番“とも呼ばれた。

梟曰く、"海賊や山賊のような女家令"。

◇目白《めじろ》

元敵国•現仮想敵国のQ国大宰相。

本来は家令の目白。

大戦中に大司教であったが、停戦の斥候としてQ国を来訪した際に拘束されて処刑されたとされていた。

実際は幼い王の宰相として、義母の立場の母后(やはり家令の戴勝)と共に活躍。

数年前に没。

◇鶍《いすか》

元敵国•現仮想敵国のQ国の太政官。

本来は家令の鶍。

元アカデミー長。

Q国の高官未亡人と出会い、亡命した先で戦死した筈の弟妹弟子の戴勝と目白に再会。

身分保証を約束され大いに貢献。

5人の妻、12人の子供、25人の孫を得た。

20年程前に没。

鵟の曽祖父に当たる。

セリム•リド•ユク

Q国王。

大戦中、宮殿で、冷遇されついた少年時代に、囚われていた目白、勝戴と、家令による"悪魔の契約"を結び、支援を受けて兄3人を葬って即位し、国は大躍進を遂げた。

後宮《ハーレム》に多くの妃がおり、多数の子を持つ。


死んだはずの兄弟子姉弟子が生きていると知った白鷹が差し向けた猩々朱鷺と関係を持った、らしい。緋連雀の父親に当たる。


⌘紅水晶《べにすいしょう》 皇女

翡翠と紅小百合の娘。

母親の意向で家令とはある程度遠ざけられ育った。

Q国皇太子と婚約が決まった。

§五百旗頭 紬然《いおきべ ゆうぜん》

宮廷軍閥、禁軍近衛兵の竜騎士。

鸚鵡と更紗の父親。前女官長の夫。

翡翠への背信疑いとして、元老院除籍、蟄居の処分となっていたが、鸚鵡が名誉回復した事で、自分も許され復籍した。


近衛兵は皇帝の近侍兵であり、大戦中は戦場にはあまり足を向けなかった黒曜帝の以降で実戦闘には関わらなかったのを、白鷹や梟から恨みに思われている。

かつて少年時代に軍神寵姫と称えられていた巫女秋沙に憧れていた。

⁂巫女秋沙《みこあいさ》 宮廷家令

西の修道院長。

猩々朱鷺の母、緋連雀の祖母に当たる。

大嘴の母違いの姉。

かつての黒曜帝の公式寵姫であり、白鷹曰く"ちょっと見てくれがいいのを鼻にかけた緋連雀が逆立ちしたって敵わない美貌"であった。

また軍でも手腕を発揮し、大戦中は軍神寵姫と呼ばれた。

長い間、弟の大鷲の安否が知れず心配していた。翡翠に頼まれて、真珠帝の首を保管していた。

現在家令の中で1番の年長。

長生きのコツは"何もしないこと"。

§真榊 鮎子《まさかき あゆこ》

西の副修道院長。

鷂の母に当たる。

かつて神殿《オリュンポス》に仕えた巫女であった。

大戦中、勝戴の指示で西の修道院に逃れた。

生活能力の低い家令の巫女秋沙の代わりに修道院では様々に実務に携わっている。

⌘瑪瑙《めのう》

琥珀の弟。真珠帝の死後、皇帝位に就いた。

リベラルで知られ、議員を支持していた。

遅くに皇帝となった事もあり、継室は持たずに離宮を好んで過ごす事が多かった。

⌘真珠《しんじゅ》

琥珀と正室の薔薇《そうび》との皇太子。

琥珀の後に皇帝位に就いた。

総家令の大鷲と共に大戦後の明るく豊かで自由な時代を反映するかのような宮廷を作り上げた。

表向きは事故死とされたが、琥珀や旧勢力から背信罪で討たれる。

琥珀に命じられて指揮したのは翡翠。

死罪より重い記録抹消剤となり、宮廷のあらゆる公式文書から名前を消去される。

⁂大鷲《おおわし》  宮廷家令

真珠帝の総家令。

巫女秋沙の母違いの弟。

母親は、大戦で戦死した家令の雷鳥《らいちょう》。

天眼であり、優秀な神官でもあった。

下の世代の家令からの信頼も厚く、面倒見が良かった。

真珠帝が討たれた際に行方不明となった。

⌘琥珀《こはく》帝    女皇帝

白鷹と共に大戦中、前線を走り回った歴戦の女皇帝。

長兄から皇位を簒奪し、皇帝に就いた。

正室との間に真珠、継室との間に翡翠、父親は公表されないままだが翠玉(真鶴)を産んだ。

白鷹を伴い早くに離宮に移った。

革新派の真珠とぶつかり、背信罪で真実を訴追。

宮城に戻る事なく離宮で亡くなった。

§済 武衛《わたり ぶえい》 

宮廷軍閥 禁軍 近衛兵

女官長の揚羽(更紗)の夫。

元老院籍はないが、五百旗頭《いおきべ》家に次ぐ軍閥の名門。

藍晶の護衛官。

⁂仏法僧《ぶっぽうそう》  宮廷家令

元議員 本名 眞弓《まゆみ》如意《にょい》

若手の世襲上院議員だったが、皇太子の恋人に唆された先輩議員と共に総家令である孔雀を襲撃し返り討ちにされた事がきっかけで家令にスカウトされる。

家令には居ない常識人ぶりと爽やかさで、宮廷の女官と官吏に大人気。

海兵隊所属

神殿《オリュンポス》所属

⁂太蘭鳥《たいらんちょう》 宮廷家令


本名 棕櫚《しゅろ》麗《うらら》

孔雀の双子の娘。

アカデミーに入学予定。

生まれてから一度も同じ年頃の子供と団体生活をした事がないので非常にマイペース。

ほぼ雉鳩に育てられた。

後見人は、元皇女の翠玉。真鶴。

⁂金襴鳥《きんらんちょう》 宮廷家令


本名 棕櫚《しゅろ》朧《おぼろ》

孔雀の双子の娘。

アカデミーに入学予定。

生まれてから一度も同じ年頃の子供と団体生活をした事がないので非常にマイペース。

ほぼ雉鳩に育てられた。

後見人は、元皇女の翠玉。真鶴。

⁂菫金剛《すみれこんごう》  宮廷家令

孔雀の息子。

ほぼ大嘴《おおはし》が育てている。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み