第18話 皇后の毒盃

文字数 8,205文字

 皇后の住まう螺鈿(らでん)宮へ続く水晶回廊(すいしょうかいろう)を、手を繋いだ緋連雀(ひれんじゃく)孔雀(くじゃく)が足音もさせずに歩っていた。
手を繋ぐのは家令がまだ子供の妹弟子弟弟子と行動する時の習慣だ。
最近は孔雀(くじゃく)もやっと手を離すことができる様になったと言われていたが、宮廷に上がってからはまた逆戻り。
本来、新任の総家令は()き日()き夜に単独で皇后の元へ向かわねばならないのだが、翡翠(ひすい)緋連雀(ひれんじゃく)が付いていくようにと指示した。
孔雀(くじゃく)は、緋連雀(ひれんじゃく)の宮廷での姿を城に上がって初めて目にしているのだが、まあその生き生きしている事。
この姉弟子は、また軍でも活躍しているが、軍での働きぶりが水を得た魚というのなら、宮廷で女官どころか継室をあしらっている姿など、嬉々として生き血をすする魔女のよう。
「・・・ちょっと、アンタ、聞いてんの?」
緋連雀(ひれんじゃく)孔雀(くじゃく)の頬を(つつ)いた。
妹弟子は、(つつ)かれた反動で頷いたが、聞いてなかったのだろうと、緋連雀(ひれんじゃく)は舌打ちした。
緋連雀(ひれんじゃく)お姉様こそ、と孔雀(くじゃく)は顔をしかめた。
孔雀(くじゃく)は出会う女官達に礼をするが、緋連雀(ひれんじゃく)はつんとそっぽを向くのだ。
「・・・緋連雀(ひれんじゃく)お姉様、ちょっとそれは感じ悪くない?」
小声で(ささや)くと、うるさいんだよ、と緋連雀(ひれんじゃく)がまた孔雀(くじゃく)の頬を(つつ)いた。
もう、と孔雀(くじゃく)が膨れる。
相変わらずのその様子を見ていた螺鈿(らでん)宮付きの雉鳩(きじばと)が苦笑した。
「・・・皇后陛下。総家令が緋連雀(ひれんじゃく)と参りました」
そう告げると、古参の女官が孔雀(くじゃく)を部屋に招き入れた。
「この度は総家令にご就任されました事、お祝い申し上げます」
「ありがとう存じます」
孔雀(くじゃく)は微笑んで優雅に礼をした。
部屋には古参の女官と、まだ若い女官が一人、控えていた。
正室である芙蓉は、奥の部屋のソファにそっと座っていた。
元老院長の縁の出で、琥珀(こはく)帝が翡翠(ひすい)に是非にと望んだ正室。
だからこそ白鷹(はくたか)は、女家令の中で最も(たしな)みの身についた青鷺(あおさぎ)を付けたのだろう。
さらに言えば、青鷺(あおさぎ)は貴族との縁のある出自らしい。
なるほど貴族筋のお姫様同士かと思えば納得だ。
確かに、この正室と青鷺(あおさぎ)が共にいたらとびきり雅やかであったろう。
昼間に訪れた珊瑚(さんご)宮は女官がとても多く華やかだったのに比べてだいぶ落ちついた様子だ。
空色というよりも更に淡い水色の絹のファブリックの統一感のある部屋で、気品がある。
青鷺(あおさぎ)お姉様もこういうのお好きね、と孔雀(くじゃく)緋連雀(ひれんじゃく)に言うと姉弟子は、あのお上品機雷(じょうひんきらい)外面(そとづら)いいからね、とまた毒づく。
皇后が奥の部屋から現れた。
その軽やかな様子が美しく、ああ、青鷺(あおさぎ)は自分達にこういう所作を身につけさせたかったのか、と納得した。
「・・・まあ、近くで見るとまたなんて可愛らしい総家令さんでしょう」
彼女はそう言うと、微笑んだ。
女家令の姉妹は改めて礼をした。
緋連雀(ひれんじゃく)は勿論言うまでもないけれど。・・・白鷹(はくたか)によっぽどしごかれたのね。とても美しい事」
女家令は舞踏をいくつか叩き込まれるが、バレエは指示通りに同じ動作をすると言う意味でやはり履修させられる。
孔雀(くじゃく)は途中から白鷹(はくたか)真鶴(まづる)に習ったが、緋連雀(ひれんじゃく)青鷺(あおさぎ)の直伝だ。
それは皇后にとってもやはり好ましいのだろう。
孔雀は同時に白鷹(はくたか)(はいたか)神殿(オリュンポス)での神楽も習ったので、どちらかと言ったら、立ち振る舞いはそちらに基礎がある。
緋連雀(ひれんじゃく)孔雀(くじゃく)の何が違うのかと言えば、緋連雀(ひれんじゃく)の細い筋肉を最大限に使って動く動作が華麗なのに対して、孔雀の大きな筋肉を使って確実に止まる動作が優雅だと言う点。
加えて言うならば、緋蓮雀は重心が高いから軽やかで華麗、孔雀は低いのでゆったりと優雅だ。
皇后は座るように促した。
浅葱(あさぎ)、総家令さんにお茶をお持ちしなさい。甘い方がいいわよね」
古参の女官が頷いて、用意をする為に下がった。
孔雀はもう一度皇后に礼を尽くすと、そっと小さな花の形の箱を取り出して差し出した。
青鷺(あおさぎ)お姉様からお預かりしたものでございます。お改め賜ります様に」
青鷺(あおさぎ)と聞いて、芙蓉(ふよう)がちょっと悲しそうな顔をした。
「・・・この度、家令が何人かお許し頂いたから青鷺(あおさぎ)もきっとと思っていたの」
芙蓉(ふよう)は箱を開けて、孔雀(くじゃく)を見た。
別人のような固い表情だった。
彼女は箱から青い石の指輪を取り出してまるでポーセリンのような華奢な指に()めた。
「私用ではないから合わないわね・・・」
孔雀(くじゃく)はそれを悲しそうに見ていたが、緋蓮雀(ひれんじゃく)は冷たくただ眺めていた。
青鷺(あおさぎ)が後生大事にしていたものをなぜ孔雀(くじゃく)に預けて皇后に返したのか。
自分たちの揉め事にこっちを巻き込むな、と面白くないのだ。
「・・・私もこれを青鷺(あおさぎ)にあげた時、こんな風になるとは思ってもみなかった」
指輪を外すとまた大切そうに箱にしまった。
「・・・これをどう思う?小さな総家令」
芙蓉(ふよう)がそう尋ねた。
「宮廷所蔵の宝飾品の中でもこれ程見事な矢車菊(コーンフラワー)(ブルー)(サファイア)は拝見した事がございません。お仕立て共にとても美しいと思います」
白鷹(はくたか)によって宝飾品の仕立てや修理等を勉強させられている孔雀(くじゃく)としては正直にそう述べた。
「そうね。・・・でも、そうではなく。これは、お前、なんだと思う?」
緋連雀(ひれんじゃく)が眉を寄せた。
難癖(なんくせ)つけようというのか、という気持ちであるのが伝わってくるようだ。
「・・・婚約指環のようだと思いました」
孔雀がそう言ったのに、芙蓉(ふよう)は一瞬だけ不快そうにしたが、すぐに表情を和らげた。
「・・・では、それを私に返した事で、それが全てね」
そう言って指環をまた箱にしまう。
きっとこの小さな箱はもう開けて貰えないのではないかと孔雀(くじゃく)は寂しく思った。
「・・・ねえ、この度の式典に鸚鵡(おうむ)が居なかったわね。(ゆる)されなかった」
おもむろに言われて、何かお(とが)めであろうかと孔雀(くじゃく)は少し戸惑った。
「はい」
「なぜだかは?」
「・・・真鶴(まづる)お姉様に近しいからだと聞きました」
「・・・翠玉(すいぎょく)ね。・・・じゃあお前知らないのね。その真鶴(まづる)が城に来たのよ」
孔雀(くじゃく)は驚いて顔を上げた。
「お前。きっと私が何なのかも知っているんでしょ」
「・・・はい」
白鷹(はくたか)の日記を読んだのだ。
孔雀(くじゃく)も驚いたのだが、この芙蓉(ふよう)という正室は、実は翡翠(ひすい)の兄の真珠(しんじゅ)帝の娘で藍玉(らんぎょく)という公主であるらしい。
真珠(しんじゅ)帝の早逝は政変だったのだ。
革新派の真珠(しんじゅ)帝が保守派の琥珀(こはく)帝に背信罪で潰された。
背信というのは最重罪。
記録抹消刑というものがあり、ダムナティオ・メモナエアという古代ローマ風に名称を伝えられるこの刑は、関わった人間達の生きた記録も死んだ記録も全て抹消される。
その後、その名前を呼ぶことも許されないのだが。
日記によると、真珠(しんじゅ)帝の正室とその娘は廃妃廃嫡となったはずなのだが、琥珀(こはく)白鷹(はくたか)に命じて孫娘の身柄を元老院長に預けたらしいのだ。
そして彼女は新たな身分を得て、翡翠(ひすい)の正室として宮廷に戻って来た事になる。
それは公には伏せられていて、城でもその事実を知るのは数名のはずだ。
さらに琥珀(こはく)帝は、真珠(しんじゅ)帝が後見人であった翠玉(すいぎょく)にもその刑を執行せよと言ったらしい。
それを止めたのは白鷹(はくたか)
皇女の身柄は白鷹(はくたか)預かりとなり、廃皇女とせぬまま、真鶴(まづる)はその時に正式に家令になったそうだ。
琥珀(こはく)帝が離宮で産み育て、幼い頃から共に暮らしていた末娘になぜそんな事を言ったのかと言えば、皇女である翠玉(すいぎょく)にも真珠(しんじゅ)帝と同じ思想が及んでいたらと恐れたらしい。
それほど琥珀(こはく)帝は革新派を憎んでいたのか。
この国の皇帝の中には、好ましいものだけを連れて離宮に暮らしを移すという者がいる。
だからこそ離宮が多いのだが。
(わずら)わしいものから遠ざかるために、というのが本音だろうが、その中に自分の夫や子が含まれているのだ。
(わずら)わしい、要らないと言われ、城に残された家族である彼らはどういう心情で居たものか。しかし実際に真珠(しんじゅ)翡翠(ひすい)もそうして育ったのだ。
その後、真珠が皇帝として正式に即位し、薔薇(そうび)という正室を迎えた。
その娘が、藍玉(らんぎょく)というわけだ。
「おばあさまが離宮で最後に産んだ皇女がいると聞いたことはあったの。でも父親を公表していないのでしょう。お前知ってる?」
孔雀(くじゃく)は首を振った。
琥珀(こはく)はもちろん知っているだろう。
だが、公式文書にも白鷹(はくたか)の日記にもその記述は無かったし、姉弟子から直接聞いた事もない。
「・・・琥珀(こはく)は長兄から白鷹(はくたか)を奪ったそうよ。だから当時は彼と白鷹(はくたか)の子だと噂されたようだけど。・・・お前、どう思う?。・・・いいのよ?思ったことをおっしゃい。家令はそれを許されているのだから」
宮廷の蝶と呼ばれる女官がひらひらと美しく王族のそばを舞っても許可がなければ発言を許されないのに対して、宮廷の鳥である家令は王族に対しての発言を許可、と言うよりもそれは義務であるのだ。
勿論、耳に心地よい言葉を紡げと言われればその様にしなければならないが。
例え不興を買っても思っている事を言えと言われたら、それは義務だ。
「・・・白鷹(はくたか)お姉様にその選択肢は許されていなかったようですので、やっぱり違うのだと思います」
どうして、と芙蓉(ふよう)が尋ねた。
琥珀(こはく)様は多くご継室や公式寵姫をお迎えになりましたが、白鷹(はくたか)お姉様が、お何人か廃妃にされたというのは我々も存じております。また、白鷹(はくたか)お姉様も勿論、その・・・身綺麗ではございませんでした様ですので。その度に琥珀(こはく)様がおよろしくは思われておられなかったとの事でしたので」
嫉妬に狂った鬼のような総家令として未だに白鷹(はくたか)は有名だし、人肉を喰らうダキニというあだ名は、軍ではなく後宮から生まれたらしい。むしろ大戦中、琥珀(こはく)と共に泥沼の状況の戦場を駆け有利な形で戦を終わらせた白鷹(はくたか)は軍では好意的な感情を持って受け止められている。
だからこそその姉弟子が宮廷でどれだけ嫌われて恐れられていたのかがわかる。
妃を廃妃にするなど。
嫉妬なのか、政治的な思惑なのか、その真実はわからないけれど。多分、両方。
そして、琥珀(こはく)もまた同じ様なものだろう。
白鷹(はくたか)の夫が、琥珀(こはく)によって離婚だの城から遠ざけたのならばまだいい。
言葉そのままにどこに行ったかわからない、という者も何人かのかいるのだ。
その女皇帝が、白鷹(はくたか)に円満な夫婦関係や家庭を望むことなどあり得ないと思うのだ。
芙蓉(ふよう)は美しい眉をそっと(しか)めて首を小さく傾げた。
その仕草はどこか芝居じみていたけれども、なんと美しい事か。
あの青鷺(あおさぎ)の愛した女性なのだ、というのが理解できる。
「・・・どういうことなのかしらね。私、やはり白鷹(はくたか)の子ではないかと思うのよ。なんとしても家令でしょう。小さな孔雀(くじゃく)、お前はどう思う?」
問われて、孔雀(くじゃく)僭越(せんえつ)ではごさいますが、と口を開いた。
「私が思い当たりますのは、白鷹(はくたか)お姉様が他の男性の子供を産むという案件は、(おそ)れ多い事を申し上げる事をお許し頂けるならば、琥珀(こはく)様にあられては許せない事であった事でしょう。白鷹(はくたか)お姉様から直接聞いた事もございますので本当だと思います」
事ある事にそう言う姉弟子が結局何が言いたいのかと言えば、私はこんなに琥珀(こはく)様に愛されていたの、という事だ。
多分、自分が子供だから感じるというだけではないだろうと思う。
その関係性の異常に近い違和感に、怖いと感想を言ったら、お前はまだまだコダヌキだねえ、なんて(わら)われた。
それが白鷹(はくたか)の言う愛というものならば、愛とはなんともやっかいで難解なもので、きっと彼女の言うその成分のほとんどは愛ではない別のもので出来ていると思う。
水に温泉がちょっと入ったら温泉と言える、と言う様なものであろうと孔雀は理解していているが。
きっと、真鶴(まづる)はやはり、白鷹(はくたか)の子ではないと思う。
孔雀(くじゃく)が何か言いたそうにしているのに気づいて、促した。
孔雀(くじゃく)は、妃殿下のお広いお心に感謝申し上げます、ともう一度礼をしてから口を開いた。
「・・・真鶴(まづる)お姉様は、どうしてお城にいらしたのでしょうか」
離宮で産まれ育ち、皇女だというのに彼女は正式に一度も宮城に上がった事がない。
家令になった後も、城に勤めた事はないのだ。
それを琥珀(こはく)帝も白鷹(はくたか)も、城に上がるのを禁じていたのではなく、城に上がらないのを許していた、というより必要性を感じなかったようなのだ。
王族としても異例であるし、宮廷家令としても常識に外れている。
なぜかと真鶴(まづる)に聞けば「だって、あそこは琥珀(こはく)白鷹(はくたか)のゴミ捨て場よ?」と姉弟子は手を叩いて笑ったのだ。
皇帝が自分が好ましいものだけを連れて離宮に移るという事はそういう事。
なんという残酷な言葉だろうと、衝撃を受けた。
王族と家令と言うものの冷酷さ、下らなさ、どうしようもなさ。
白鷹(はくたか)に、お前になれと言ってるのはこれ。お前がなるのはこれなのよと、言われた気がした。
母王、琥珀(こはく)帝に愛された自分が今更なぜ、とまで言った姉弟子が、なぜ城に上がったのだろう。
芙蓉(ふよう)が少しだけ目を細めた。
彼女が自分の感情を表にするのは珍しい。
気分を害したのが分かり、孔雀(くじゃく)は短く謝罪を述べた。
「いえ。お前がいけないのではない事よ。・・・翡翠(ひすい)は言ってないのね。ずるい事。翠玉(すいぎょく)が来たのは皆殺しにする為よ。翡翠(ひすい)だけじゃない。城にいる王族と元老院、まつろわぬ者も全部ね。・・・ほらあの禁軍から家令になった変わり者を先導にしてね。恐ろしいでしょう。だから私は琥珀(こはく)白鷹(はくたか)の子と思ったわけだけれど」
孔雀(くじゃく)は絶句した。
兄弟子の鸚鵡(おうむ)の罪とはこの事か。
大罪ではないか。
しかしではなぜ、彼は生きて居られるのか。
ただでは済むまいに。
知らないわ、と芙蓉(ふよう)はちょっと微笑んだ。
本当に知らないのか、それと関心がないのかは分からないが。
「全く理解しがたいわねえ。お前も大変ねえ。・・・でも、その皇女がまさか家令になんてなっていたなんて思わなかった」
家令なんて、困ったものよ、と微笑む彼女はどこか楽しそうだった。
「・・・浅葱(あさぎ)、総家令さんがまだこんなに女の子だもの。甘くしてくれた?」
芙蓉(ふよう)に指示されて女官が小ぶりのカップをテーブルに置いた。
金細工と鮮やかな七宝で出来たものだった。金と半貴石の茶器。
なんとも豪華で(きら)びやかだ。
確かに、彼女は琥珀(こはく)に繋がる王族なのだろう。
白鷹(はくたか)真鶴(まづる)に連れられて琥珀(こはく)の離宮に上がり使い走りをしていた時に女皇帝が身の回りに好んだものはこういう調度類であった。
宝石や螺鈿で輝きすら計算されたような美しいもの。
それまでは、可愛らしい草花や小動物が描かれた陶器や滑らかな漆器や繊細なガラスで作られたものが人間の食器だと思っていた。
宝石と金で出来ている食器なんて、きっと神様とか、宇宙人とか、人間とは違う存在の使う食器だと子供の自分は思ったものだ。
離宮では本当にこれでお茶なんて飲むの、と首を傾げながら茶を淹れる孔雀(くじゃく)白鷹(はくたか)は、早くしろ、でもちょっと冷ましてから持ってこいと無理難題を言って、何度も困らせたものだ。
小ぶりだがそのまるで宝物のようなカップを孔雀は見つめていた。
「お前、(とお)で家令に召し上げられたとか。かわいそうに。そしてまた総家令にだなんて。・・・そうしたのはあなたの兄弟姉妹達よ。家令ってひどいわね」
緋連雀(ひれんじゃく)はつんと澄まして、恐れ入りますとちょっと会釈をした。
孔雀(くじゃく)は素直に頷いて微笑んだ。
家令がひどいのなんて今更だ。
青鷺(あおさぎ)お姉様はこの度お城に戻ることは叶いませんでしたけれど。機会があれば城に戻して良いと陛下からお許しを頂いております。・・・どうぞ、もう少々お待ちくださいませ」
孔雀(くじゃく)は姉弟子とこの皇女をどうしてもまた会わせたいのだ。
芙蓉(ふよう)は微笑んだ。
「まあなんて嬉しいのでしょう。・・・ちょっとこっちへおいでなさいね」
彼女は立ち上がると、緋連雀(ひれんじゃく)をほんの(わず)かの動きの指で制して、孔雀(くじゃく)を促した。
緋連雀(ひれんじゃく)が眉を寄せたが、孔雀(くじゃく)はそっと立ち上がって、皇后に続いた。
皇后の私室は、謁見室同様に美しく(あつら)えてあった。
が、どこか違和感を感じ、不思議に思った。
孔雀(くじゃく)は窓の美しい鎧戸(よろいど)を見て合点がいった。
「開かないのよ、その窓」
()め殺しになっているのだ。
「・・・そう。ここは冷宮よ。私は、出ないのではなく出れないの」
公式行事にのみ姿を現す美しい皇后の実は幽閉。
二妃の死に際して、白鷹(はくたか)は激怒し、(ふくろう)は自分と青鷺(あおさぎ)を引き裂いて、自分をこの牢獄に閉じ込めた。
「・・・だから私、ずっと待っていたの。青鷺(あおさぎ)が私を女皇帝にする為にやってくるのをね」
私と孔雀(あの子)以外は皆殺しね、とそう言った翠玉(すいぎょく)をどれだけ妬ましく思ったか。
自分が青鷺(あおさぎ)にそう言われたかった。
後ろ盾である元老院長の義父に皇妹に謀反の意ありと知らせて、すぐに義兄が動いた。
彼はその功を認められて翡翠(ひすい)から元老院次席の職を与えられた。
皇帝が崩御してそれが伏せられる間は何があってもおかしくない期間。
ある者は身に降りかかる断罪に震え、ある者は爪を研ぎ、ある者は立ち上がる。
「こんなに可愛い総家令が来てくれるのだったら、私ももう少し待てたかもしれないのに。・・・全く。青鷺(あおさぎ)に振られてしまったわ」
青鷺(あおさぎ)は、孔雀に自分が与えた指輪を預け返して寄越すことで、皇位も自分の事ももう諦めろと言ってきたのだ。
その裁可は、この妹弟子に。どうするかはこの子が決めるでしょう、と言う身勝手さで。
家令らしい。
彼女は若い女官を呼び寄せた。
可憐なスノードロップが描かれた美しい小さなシェリーグラスを捧げ持っていた。
「この子はあなたと同じ年なの。見習い女官でね」
緊張した様子で彼女は会釈をした。ぎこちないのはまだ日が浅いからか、緊張からか。
そのどちらもだろう。
「女官方は十八歳から見習いと伺っていましたけれど・・・」
家令は十五で一端(いっぱし)、女官は十八で見習い、というのが宮廷の常識だ。
女官登用試験資格が十八歳からという規定があるからだが。
孔雀(くじゃく)が尋ねた。
「そうなの。この子は先ほどの浅葱(あさぎ)の孫娘なのよ。その縁で特別に私の元に呼んだの。お前が来るって聞いたから」
孔雀(くじゃく)は意味を計りかねて皇后を見上げた。
青鷺(あおさぎ)に聞いたことがあるの。今では形式上の事だけれど。昔、白鷹(はくたか)琥珀(こはく)帝の正室に毒を賜って、正室につき返して女官に飲ませて、その女官は亡くなったそうね。それから真珠(しんじゅ)帝の総家令の大鷲(おおわし)はそのまま毒杯を飲んで死にかけたそうではないの」
総家令は就任すると正室から毒を賜る。
それをどうするかは各々の裁量であり、昔からの習慣だが今では儀礼的な習わしでしかない。
実際は、宝石や、何かの権利を賜る例が多く、(ふくろう)瑪瑙(めのう)帝の正室から、貴重なワインを賜ったと言っていた。
孔雀は少し黙ってから、少しだけ悲しそうに口を開いた。
「・・・私には、白鷹(はくたか)お姉様や大鷲(おおわし)お兄様程の根性もございませんし・・・。大変不敬とは存じますが、私は翡翠(ひすい)様に、姉弟子や兄弟子の様にそこまでの感情があるかと言ったらあるわけもなくて・・・」
あまりにも素直に答えられて芙蓉(ふよう)はそこで初めてこの若い女家令を少し気の毒に思った。
自分の息子よりも年下のこの家令は元は継室候補群の娘。
それが何がどうなったのか、ここでこうしているのだ。
宮廷とはおかしなことが起きる舞台であると心底思う。
それは自分が一番知っている。
孔雀(くじゃく)は、年相応、もしかしたらそれより幼い表情をした。
白鷹(はくたか)お姉様に、きっとお前は毒を賜るよ。どうするかはお前次第。好きにしなって言われました」
「・・・まあ、いやだ。無責任だこと」
仕方なさそうに芙蓉(ふよう)はそう呟いた。
「・・・さあ、ならば。可愛い総家令。どうしましょうね。毒じゃないかもしれないし。毒かもしれないし。お前が飲んでもいいし。浅葱(この子)にあげてもいいわよ。それとも私にでもいい。・・・私はもうどちらでもいいの」
白鷹(はくたか)の話を聞いてから、顔色を無くしていた若い女官見習いの手が震えていた。
会ったこともない鬼のように恐ろしいその元総家令をなぞるならば、毒杯は自分に回ってくるはずだ。
家令とは恐ろしいのよ、と、美しく優しい皇后に折に触れて言われていた。
自分より年下のこの総家令の地位についた少女から、飲めと渡されたのなら、自分はこの小さなグラスを煽らなければいけないのだ。
困惑と恐怖と憎しみで、若い女官の胸は潰れそうだった。
孔雀はそっと小さな花の器を手にとって手の中の器を見てから、飲み干した。
それが、覚悟してとか平然と、ではなく、全く普通にいただきますと飲む物だから、見習い女官は不審に思った。
「・・・私もどっちでもいいです・・・」
正直な気持ちだった。
皇后は意外そうに微笑んだ。
女官見習いは、ほっと息を吐いたが、心配そうに孔雀(くじゃく)を見ていた。
「・・・皇后様。どうぞもうしばらく青鷺(あおさぎ)をお待ち頂けたら我々嬉しく存じます。・・・それでは、輝かしき華のお方。しばしの鳥の侍りをお許し頂き感謝申し上げます」
孔雀(くじゃく)は、皇后を(たた)える言葉と感謝を述べて、また優雅な女家令をして、部屋を退出した。  
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登場人物紹介

⁂孔雀《くじゃく》  宮廷家令

十歳で問答無用で宮廷家令に召し上げられる。元は継室候補群十一家のうちの棕梠家の生まれ。(実績が低いので宮廷での信用は低い)。 本名は棕梠 杏花春雨《しゅろ きょうかしゅんう》。

皇帝である翡翠帝により、十五歳で宮宰である総家令を賜る。

実家は、ギルド筋と言われる商業経済活動を生業とする立場にある。砂糖商から身を起こし現在は製菓業。異種多種経営で建築資材、水産加工品、食品流通等様々であるが、今も昔もカステラが一番有名。通称カエルマーク。

国を超えて経済活動をするギルド筋の人間には珍しくないが、どこかで外国の血が混ざっていて、青菫色の瞳をしている。

棕梠家は双子が多く生まれる家で、孔雀はいわゆるバニシングツイン(周産期で双子が一人になってしまう。生き残り)。

その場合、名前を二人分つけるという習慣があり、杏花・春雨という変わった名前になっている。

海軍所属。十二歳から軍属に就く。

金糸雀、緋連雀と共に女官試験にパスしているので、宮廷では三人官女と呼ばれている。(陰ではゴーゴン姉妹と揶揄されている)。

小さな頃から軍で働いていたので、自国ではヒヨコちゃんやフラッフィー等と呼ばれていたが、後に悪魔の王《ルシファー》という渾名で敵国から認識されるようになる。

神殿の神祇官。大神官になれる素養があるとされる。

異能を持つ天眼(結構いる)の生まれ。

個性の強い大人に振り回されて奮闘中。

実用性のみの特技はいろいろあるが、マグロの解体が出来る。

頑健な者ばかりの他の家令より多少虚弱でよく寝込む。

⁂金糸雀《カナリア》  宮廷家令

母親が女家令の青鷺《あおさぎ》。父親が梟《ふくろう》。生まれながらの宮廷家令の身分。

海外の寄宿舎育ちで、幼少から天才少女と誉高く、家令の身分ながら、官僚試験の殿試を二位である榜眼《ぼうがん》でパスしている。また女官試験もパスしているので、孔雀、緋連雀と共に三人官女と呼ばれている。(裏ではゴーゴン姉妹と揶揄されている)

軍事法廷専門の弁護士。

陸軍所属。十ニ羽の五色鶸《トゥェルブ・ゴールドフィンチ》部隊を率いる。

渾名は、人食いワニ《マンイーター》。

宮廷では、報道官を務め、また後宮内の服飾の管理、軍の装備品の開発を担当している。

神殿《オリュンポス》の神祇官。

ボウルルームダンスのチャンピオン保持者であり、アスリートタイプ。

真鶴に唆されて、白鴎と一ヶ月だけ結婚していた。結婚生活は正味十日程度。

白鴎の浮気に激昂して、白鴎を半殺しにして病院送りにして、一人で新婚旅行を楽しみ現地でデートクラブを経営して荒稼ぎしていた。

結婚式の準備と離婚のお詫び行脚を丸投げされた孔雀から恨まれている。

⁂緋連雀《ひれんじゃく》 宮廷家令

母親が女家令の生まれながらの宮廷家令の身分。三代続く女家令。

祖母は大戦の折に戦歴を称えられ、当時の黒曜帝の公式寵姫でもあった美貌の女家令、巫女愛紗《みこあいさ》。

母親は、アカデミー長の猩々朱鷺《しょうじょうとき》。

宮廷で育った為、自他共に認める美貌と教養を鼻にかけている節があり、「宮廷育ちの根性曲がり」と陰口を叩かれている。

少女の頃から宮廷画家であり人間国宝の画聖・淡雪を師匠に日本画を修練し、雅号を持つ逸材。

宮廷に関わる男を手玉に取り一財産築きつつある。

孔雀、金糸雀と共に、女官試験もパスしているので、三人官女とも呼ばれる。(裏では、ゴーゴン姉妹と揶揄されている)

海軍所属の出世頭。渾名は、火喰蜥蜴《サラマンダー》。

聖堂《ヴァルハラ》所属の司祭。

バレエのエトワールであり、招かれて海外公演もこなす。

第二太子の天河曰く、「殺し屋のようなオデット姫」。

外見は華やかな美貌であるが、中身は中年男性に寄りがちな食生活と生活態度であり、軍隊の猛者がドン引く程の下ネタが得意。

⁂白鷹《はくたか》   宮廷家令

翡翠帝の母親である琥珀女皇帝の総家令であった。

現在は離宮で琥珀のもとに仕えているが、宮廷での影響力は未だ健在。

若き時代、皇女であった琥珀と共に大戦の前線を駆け抜けた強者であり、大戦で多くの家令が戦死した中で、数少ない生き残り。王族のうちでも皇統下位であった琥珀の帝位簒奪に尽力した。

後進に対して教育熱心であるが、性格は非常に自分勝手で激しいものがある。

大戦当時の神殿の神官長でもあった王族に、弟弟子である大鷲《おおわし》が監禁されていたのを不服に、報復の為に神殿を焼き討ちした過去があり恐れられている。

人肉を屠るダキニ、人肉を喰らうダキニと呼ばれている。

子供の孔雀に目をつけて、問答無用で召し上げた。

現在も家令達を統率している。

神殿《オリュンポス》の神祇官。

⁂梟《ふくろう》   宮廷家令

翡翠の叔父、琥珀の弟に当たる瑪瑙帝の総家令。

白鷹と共に、孔雀を宮廷家令に召し上げた。

金糸雀の実父であり、青鷺の元夫。

大戦の折に、若くして従軍した生き残り。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

武闘派の白鷹に対して、梟は陰険な策謀家で知られていて、宮廷ではその情報を掌握して恐れられている。

渾名は死神。

⁂雉鳩《きじばと》    宮廷家令

父親が王族、母親が琥珀帝の父親である黒曜帝の総家令の白雁《はくがん》と黒曜帝の皇妹の娘。

宮廷では緋連雀と共に美貌を知られている。ウェストは緋連雀より細い。

アカデミーで医師の資格を取っているが精神科医で臨床経験はない。

海軍所属。渾名は大海蛇《シーサーペント》。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

書道の大家。

本名 羽黒山 稼頭男《はぐろやま かずお》

自分の美意識に合わず、本名を隠したがる。


⁂白鴎《はくおう》    宮廷家令

ギルド筋出身。金融業を生業とする、ギルド長を務める百目木《どうめき》家の次男坊。

金融、マスコミ、宗教関係は正室、継室共に入宮は出来ない規則があり、継室候補群ではない。

海外に留学中に己の悪徳の致すところで勾留の憂き目に遭い、父親が梟に泣きつき、裁判にて無罪となる。

家令にする事を条件とされていた為に、放免後そのまま宮廷家令の身分となる。

陸軍所属。作戦中に部隊がほぼ壊滅状態となり、軍属から離れている。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

真鶴に唆されて、短期間だが金糸雀と結婚していたが、すぐに離婚。

金糸雀に半殺しにされて入院した経験がある。

留学中に伝統ある料理学校と三ツ星シェフの元で修行をしたオーベルジュでの勤務の経験もあるシェフでもある。

本名 百目木 円《どうめき まどか》


⁂大嘴《おおはし》   宮廷家令

聖堂《ヴァルハラ》の教皇座を出している家柄の出身の三男坊。

大嘴を家令にする事を条件に、梟によって、議会に置いて大戦で失われた大聖堂の再建予算案が通った。

空軍所属。聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

付き合いがよく、上の世代に育児放棄されつつも孔雀と燕とガーデンで自活した経験がある。

翡翠の第二太子である天河《てんが》と共に、一時海外で共に生活をしていた。後に正式な侍従となる。

本名 英 三郎《はなぶさ さぶろう》

⁂燕《つばめ》   宮廷家令

宮廷家令。

母親が女家令であり梟の実妹の木ノ葉梟《このはづく》。

宮廷育ちで、幼い頃から宮廷で使い走りをしていた。

家令の教育期間であるガーデンに行った途端に、上の世代から育児放棄されて孔雀と大嘴と自活する。

実母も、周りの姉弟子兄弟子も強烈な為、家令の中でもマイペースな孔雀と大嘴との擬似家庭を結構気に入っていた。

⌘翡翠《ひすい》   王族・皇帝

琥珀女皇帝と継室であった椿《つばき》との間の第二太子。

叔父の瑪瑙の跡を継いで皇帝となる。

琥珀の時代の皇帝であった長兄の真珠帝が背信罪となり、琥珀帝と当時の総家令の白鷹により、侍従であった家令の川蝉《かわせみ》と共に、討伐の命を受けた。

アカデミーでドクターの資格を修めたが、臨床の経験はない。

王族の慣例に則り、十五で婚姻。正室である元老院筋の芙蓉《ふよう》皇后。第二妃として、ギルド筋の継室の木蓮《もくれん》、三妃として、議員筋の紅小百合《紅小百合》がいる。

それぞれの后妃との間に、皇太子の藍晶《らんしょう》、第二太子の天河《てんが》、皇女の紅水晶がいる。


孔雀を総家令に任命した。

孔雀の若さに注目した宮廷の人間から、特殊な性癖の持ち主なのかと噂される。

半分、妹である真鶴、翠玉皇女への当て付けで孔雀を総家令に任命して、伽に招いた。

残り半分の、都合の人事としての総家令任命であったが、徐々に孔雀との間に真摯な関係を結ぶようになる。

人々から愛隣王という称号で呼ばれるようになる。

外見の物腰が柔らかで繊細に見えるが、内面は結構雑

母親である琥珀にそもそもあまり親近感はない。

⌘藍晶《らんしょう》   王族・皇太子

翡翠と、芙蓉皇后の間の皇太子。

母が元老院筋の大貴族の出なので、元老院派の支持も篤く、またリベラル派でもあり若手議員からも信奉されている。

生来の貴公子であり、国内外からも人気がある。

社交界の華であり、数多くの浮名を流しているがそれもまた人気。

第一子、皇太子が後継とは限らない王朝において、琥珀帝によって生まれながらに皇位を約束された「幸福な王子」。

本来は十代半ばで婚姻を済ませているはずだが、不服としていたが孔雀により延期となり、また宮宰としてたち働く孔雀を、気の毒に思いながらも都合のよい総家令として満足している。

⌘天河《てんが》    王族・第二太子

翡翠と二妃・木蓮の間の第二太子。母親がギルド筋であり、特殊な案件で早逝した為、宮廷では冷遇されていた。

アカデミーで、宇宙物理学を専攻して、研究と共に教鞭にも立っている。

母親の死後、一時期、ギルド長を辞した祖母と、アカデミー教授であった祖父と共に海外で暮らしていた。

大嘴とは兄弟のように育つ、遊び仲間でもある。

少年の頃、孔雀を気に入り、母親である二妃と翡翠の侍従であった川蝉が宮廷に招こうとしていたが、孔雀が家令となり、総家令として宮廷に仕える事になったのを不服に思っていて、原因であり無神経な言動をする梟を恨んでいる。

王族に見られる、異能の龍現の生まれとされるが特に何か特別な才能は見られない。

父親である翡翠と逆で、見た目は鷹揚だが、中身が神経質なところがある。


母親が亡くなった宮城から距離を取って成長し、更に孔雀が総家令になった事で更に足が遠のいていたがアカデミーで問題行動を度々起こしていたが、孔雀が歩み寄った事で、徐々に宮廷や家令達と関わるようになる。

浮世離れたした人間の多い宮廷においては数少ない常識人であり、その点から苦労性である。

⁂鵟《のすり》    宮廷家令

本名・篠山 茜《しのやま あかね》。高校生。母親と母親の夫、その妹と暮らしていた。実父は死亡。家庭環境としては恵まれたものではなかった。

父方の曽祖父が宮廷家令であるとの事で、スカウトされ、了承する。

戸惑いながらも、少しずつ家令としての生活に希望と自意識を見出す。

家令としての孔雀に興味を持ち、あれこれと物語を聞かされる事になる。

⁂黄鶲《きびたき》    宮廷家令

川蝉《かわせみ》の妻であり、尉鶲《じょうびたき》の実母。

翡翠により宮廷の終身典医としての地位を与えられている。

二妃が死亡し、他の同世代の家令達が宮城から放逐された時も、終身典医の地位の為に守られた。

アカデミーの医局に勤めるドクターでもある。

前線で医療行為を行うNPO法人も運営している。

趣味は保護猫の去勢。

若かりし頃に一時期、翡翠と関係があった。

宮廷で、青鷺《あおさぎ》、鷂《はいたか》、猩々朱鷺《しょうじょうとき》、木ノ葉梟《このはずく》と共に、妖精《フェアリー》と呼ばれた世代。陰では小鬼《ゴブリン》と揶揄されていた。

聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

⌘芙蓉《ふよう》   王族・皇后

 元老院筋の大貴族から入宮した翡翠の正室、皇后。

皇太子である藍晶の母。

後宮の螺鈿《らでん》宮の主。

以前は青鷺が侍従として仕えていた。


前元老院長の親族であり、養女と言う形での入宮であったが、実は、真珠帝と皇后出会った薔薇《そうび》との娘である碧玉公主。

⁂青鷺《あおさぎ》   宮廷家令

金糸雀の実母、梟の元妻。

宮廷で最も思慮深く上品で教養のある女家令と言われている。

芙蓉皇后の侍従として仕えていた。

二妃が亡くなった際、不手際を咎められて白鷹から宮城から放逐されたうちの一人。

孔雀が総家令に就任した際に、恩赦として復位を賜ったが、以来、宮城には戻っていない。

海兵隊所属。

現在、海兵隊の責任者として前線に勤務している。

外見も物事も淑やかなのだが、やはり凶暴な面があり、家令達からはお上品機雷と呼ばれている。

渾名はワイバーン。

黄鶲、猩々朱鷺、鷂、木ノ葉梟と共に、妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた世代。

⁂鷂《はいたか》    宮廷家令

神殿《オリュンポス》の神祇官。

陸軍所属。

父親が大戦で戦死した家令の青鵐《あおじ》。母親が西の副修道院長。

聖堂《ヴァルハラ》の元枢機卿(大嘴の長兄)と深い中になり、問題となった為に現在、海外の機関に出向中、と言う事になっている。

二妃が亡くなった際に、責任を問われて城から放逐された一人。

黄鶲、青鷺、猩々朱鷺、木ノ葉梟と共に、宮廷で妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた世代。

真珠帝の公式寵姫でもあった。

⁂瑠璃鶲《るりびたき》   宮廷家令

翡翠の祖父にあたる黒曜帝の総家令代理を務めた。

黒曜帝が退位後は、宮城から離れアカデミーにて研究の日々に戻った。

元アカデミー長。現在は医聖の称号を得て、アカデミーの精神的支柱。

⁂猩々朱鷺《しょうじょうとき》 宮廷家令

現アカデミー長。美貌で知られる女家令。

母親は巫女秋沙であり、緋連雀は娘。

母親が黒曜帝の公式寵姫であった事から、猩々朱鷺はその娘ではないかと言われている。

(女家令から生まれた者は生まれながらに家令の身分なので、父親の存在は不問でありあまり頓着されない)

陸軍所属。渾名はワイバーン。

聖堂《ヴァルハラ》所属の司祭。


かつて翡翠の第二妃であった木蓮付きであったが、彼女の死の責任を追及されて宮城から放逐された世代の1人。

後、アカデミーで天河を支えた。


真珠帝と大鷲総家令の時代に宮廷で、青鷺、黄鶲、鷂、木ノ葉梟と共に、妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた。

大嘴以上の大喰らいである。

⁂木ノ葉梟《このはずく》 宮廷家令

梟の実妹。

王立図書文書館統括司書。

翡翠の二妃の死によって責任を問われて宮城から放逐された世代の末妹。

空軍所属。聖堂《ヴァルハラ》の司祭。

燕の実母。

白鷹所有の別荘で燕を産んだ。

家令には珍しく小柄だが、1番血の気が多く、小型爆弾と呼ばれている。


真珠帝と大鷲総家令の時代に、青鷺、黄鶲、猩々朱鷺、鷂と共に、宮廷で妖精《フェアリー》、小鬼《ゴブリン》と呼ばれた。

⁂鸚鵡《おうむ》 宮廷家令

本名、五百旗頭《いおきべ》 綾《あや》。

元は宮廷近衛兵、禁軍である軍閥の生まれ。母親が前女官長であったので、姉である現女官長と、白鷹の離宮に出入りを許されていた。真鶴のファン。真鶴が家令の身分に処される時に自らも家令になってしまった。

アカデミーの医学部出身で、茉莉のもとで東洋医学を納めた。

真鶴の為に家政学部も通信で卒業。


現在、前線の野戦病院勤務。

⁂川蝉《かわせみ》  宮廷家令

翡翠の元侍従。離宮に移った瑪瑙帝と梟総家令の時代、当時皇太子であった翡翠と宮城に残り、総家令代理を務めた。

翡翠と共に真珠帝追討の指揮を執った。

ニ妃の死の責任を負い、宮城を放逐された世代。軍中央《セントラル》所属であったが軍属、更に聖堂《ヴァルハラ》の司祭の立場も解かれた。

家令の特殊運用組織であるエトピリカに出向し海外での勤務に当たる。


⁂真鶴《まづる》  宮廷家令

美貌と知性が抜群で、人を惹きつける魅力があり本人もそれは十分自覚している。

なんでもできるし、なんでもやる。

女神のような、または悪魔のようなと評される。

面倒見が良く、弟妹弟子からも慕われている。

人類に貢献する程の研究《ナンバリング》を多数所有。

アカデミー特別委員の1人。

海軍所属。演習で人喰い羆を仕留めた事から、渾名は羆殺し、レディ・タイガー。

神殿《オリュンポス》の神祇官と聖堂《ヴァルハラ》の司祭どちらも務める。


本来は琥珀帝が離宮で産んだ最後の娘であり、翠玉皇女の身分であった。

後見人であった長兄の真珠帝が背信で処された煽りをくって、家令の身分から家令となる。

家令の生活を本人は割と気に入っている。


⁑茉莉《まつり》  

家令の父親とそうではない母親を持ち、家令にはならない事を決めた"蝙蝠"《こうもり》と呼ばれる存在。

家令名は、千鳥《ちどり》。

父親は大戦の生き残りで戦後復興に尽力した唐丸《とうまる》。母親は貴族筋の女官で琥珀帝に仕えた。

翡翠の友人。

アカデミーで東洋医学を研究して学位を取り、教育に力を入れている。鸚鵡も教え子の一人。

家令と反目する軍中央《セントラル》に所属している。

⁂尉鶲《じょうびたき》 宮廷家令見習い

黄鶲と川蝉の息子。

10歳になり、宮城や離宮で家令見習いとして使い走りを始めたばかり。

現在、家令の中で1番の年少者。


§淡雪《あわゆき》  宮廷画家

本名 東雲《しののめ》淡雪

アカデミーに所属する画家。

アカデミー特別委員。

人間国宝、画聖の称号を持つ。

翡翠の学友。

緋連雀の師匠。

作品は宮廷でも人気がある。

継室が欲しがった作品を白鷹も欲しがり、琥珀が倍の値段で買い上げ白鷹に与え騒動になった逸話がある。

本人はあまり物事にこだわらないたちなので、人間関係に巻き込まれる事もなく生きている癒し系。

放浪癖があり、あちこちスケッチ旅行に出かけては戻って来ない。

宮廷画家として大聖堂修復の指揮を執った。

§路峯 隼 《ろほう はやと》 

元老院次席であり、父は元老院長であった。

翡翠の正室、皇后の芙蓉を出した大貴族であり屈指の名門出身。

父の後妻として雉鳩の母が路峯家に入っている。

翡翠の学友。

皇太子である藍晶を支持している。

議員派と親しい皇太子を危惧している。

⌘鈴蘭《すずらん》   皇太子正室

元老院派 比嘉家の二の姫。

孔雀の推薦で、藍晶の正室として後宮に入宮した。

快活で朗らかであり、皇太子宮である象牙宮の若き女主人を務めている。


§揚羽《あげは》    女官長

本名、済 更紗《わたり さらさ》。

旧姓 五百旗頭《いおきべ》。

祖母、母と女官長を三代務める。

宮廷軍閥、五百旗頭家の出身。鸚鵡の姉。

女官は、上位五役までが蝶の名前を戴く。

最も高位の女官長 揚羽。

母もまた女官長であった事もあり、鸚鵡と共に子供の時から琥珀の離宮に出入りしていた。

真鶴とは幼馴染。

⌘紅小百合《べにさゆり》 王族•第三妃

翡翠の三妃。継室候補群議員派の出身。

本名 渡良瀬 香織《わたらせ かおり》

リベラル派だった瑪瑙帝の推薦で入宮した。

紅水晶皇女の母。

正室の地位を望んでいる。

身近に家令を置く事を好まない。

正室、ニ妃が不在につき国内外でファーストレディとして活躍。

⌘木蓮《もくれん》 王族•第二妃

翡翠のニ妃。継室候補群ギルド派出身。

天河の母。

本名 縞野 乃衣美《しまの のえみ》。

母がギルド長、父がアカデミーの教授で外国人であった為、海外で生まれ育った。

天河が10代のうちに宮城で亡くなった。

⌘撫子《なでしこ》   皇帝四妃

本名 一宮 絲子《いちみや いとこ》

元老院筋の貴族の正室候補群である一宮家から翡翠に入宮した。

翡翠帝以外も、皇太子の藍晶の正室、継室、第二太子天河の正室、といずれの縁談にも名前が挙がる程の名家。

食が細く、厨房を預かる白鴎と、孔雀を悩ませている。

§紋白《もんしろ》   副女官長

本名 鏡 華《かがみ はな》

女官の五役の一人。

没落貴族の出身で、女官試験を受けて登用された。

結婚時に一度城を下がったが、その後離婚して復職した。

子供が宮城内のキンダーガルデンで育ち、同じ宮城内にある舎宅に暮らしている。

当初は孔雀に反感を持っていたが、現在では好意的。

同じ貴族出身の四妃に複雑な感情を抱いている。

§銀椋鳥《ぎんむくどり》 宮廷家令

本名 エマ•ダミニ•タシオニ 

母親はアカデミー教授のキーヴァ•タシオニ。

10代でアカデミーに入学を許された天才少女。孔雀が母親のタシオニと親しくなり、孔雀とも友達になる。

家令逹のアカデミーでの宿舎である"止まり木"にもよく出入りをしていた為、天河や大嘴とも親しくなった。

大嘴に憧れて17歳で家令になった。

真鶴を強く意識している。

茜が家令になってくれて嬉しく思っている。

§ヤドヴィカ・タシオニ  アカデミー教授・動物学者

アカデミーで動物学、獣医学を研究、教鞭をとる教授。エマの母親。

アカデミー特別委員の1人。

優秀で、トリッキーなところがある。

アカデミーでの孔雀の師となる。

エマに家令になればいいのにとアドバイスをし、心配だと渋る孔雀を説得した。

⁑ ヘルムート・ネイガウス  A国将校

アカデミーに属するA国将校。

天河の友人。

お互い前線を挟み睨み合う仮想敵国の立場だが、アカデミーでは政治的思惑は不問の為、複雑ながら親交は深い。

A国は皆徴兵制がある為、少年の頃から兵役の経験がある。

軍人一家であり、海軍に在籍している。

◇戴勝《やつがしら》

元敵国•現仮想敵国のQ国母后。

本来は家令の戴勝。

一時、神殿《オリュンポス》で大神官を目指して潔斎に入っていたが、放り出して戦場に戻る。

大戦中に戦死したと記録されているが、実際はQ国で拘束され殺されたとされた目白と共に幼い王の義母として活躍し辣腕を奮っていた。

大神官を目指した事から、"神の花嫁"とも呼ばれ、また、“地獄の門番“とも呼ばれた。

梟曰く、"海賊や山賊のような女家令"。

◇目白《めじろ》

元敵国•現仮想敵国のQ国大宰相。

本来は家令の目白。

大戦中に大司教であったが、停戦の斥候としてQ国を来訪した際に拘束されて処刑されたとされていた。

実際は幼い王の宰相として、義母の立場の母后(やはり家令の戴勝)と共に活躍。

数年前に没。

◇鶍《いすか》

元敵国•現仮想敵国のQ国の太政官。

本来は家令の鶍。

元アカデミー長。

Q国の高官未亡人と出会い、亡命した先で戦死した筈の弟妹弟子の戴勝と目白に再会。

身分保証を約束され大いに貢献。

5人の妻、12人の子供、25人の孫を得た。

20年程前に没。

鵟の曽祖父に当たる。

セリム•リド•ユク

Q国王。

大戦中、宮殿で、冷遇されついた少年時代に、囚われていた目白、勝戴と、家令による"悪魔の契約"を結び、支援を受けて兄3人を葬って即位し、国は大躍進を遂げた。

後宮《ハーレム》に多くの妃がおり、多数の子を持つ。


死んだはずの兄弟子姉弟子が生きていると知った白鷹が差し向けた猩々朱鷺と関係を持った、らしい。緋連雀の父親に当たる。


⌘紅水晶《べにすいしょう》 皇女

翡翠と紅小百合の娘。

母親の意向で家令とはある程度遠ざけられ育った。

Q国皇太子と婚約が決まった。

§五百旗頭 紬然《いおきべ ゆうぜん》

宮廷軍閥、禁軍近衛兵の竜騎士。

鸚鵡と更紗の父親。前女官長の夫。

翡翠への背信疑いとして、元老院除籍、蟄居の処分となっていたが、鸚鵡が名誉回復した事で、自分も許され復籍した。


近衛兵は皇帝の近侍兵であり、大戦中は戦場にはあまり足を向けなかった黒曜帝の以降で実戦闘には関わらなかったのを、白鷹や梟から恨みに思われている。

かつて少年時代に軍神寵姫と称えられていた巫女秋沙に憧れていた。

⁂巫女秋沙《みこあいさ》 宮廷家令

西の修道院長。

猩々朱鷺の母、緋連雀の祖母に当たる。

大嘴の母違いの姉。

かつての黒曜帝の公式寵姫であり、白鷹曰く"ちょっと見てくれがいいのを鼻にかけた緋連雀が逆立ちしたって敵わない美貌"であった。

また軍でも手腕を発揮し、大戦中は軍神寵姫と呼ばれた。

長い間、弟の大鷲の安否が知れず心配していた。翡翠に頼まれて、真珠帝の首を保管していた。

現在家令の中で1番の年長。

長生きのコツは"何もしないこと"。

§真榊 鮎子《まさかき あゆこ》

西の副修道院長。

鷂の母に当たる。

かつて神殿《オリュンポス》に仕えた巫女であった。

大戦中、勝戴の指示で西の修道院に逃れた。

生活能力の低い家令の巫女秋沙の代わりに修道院では様々に実務に携わっている。

⌘瑪瑙《めのう》

琥珀の弟。真珠帝の死後、皇帝位に就いた。

リベラルで知られ、議員を支持していた。

遅くに皇帝となった事もあり、継室は持たずに離宮を好んで過ごす事が多かった。

⌘真珠《しんじゅ》

琥珀と正室の薔薇《そうび》との皇太子。

琥珀の後に皇帝位に就いた。

総家令の大鷲と共に大戦後の明るく豊かで自由な時代を反映するかのような宮廷を作り上げた。

表向きは事故死とされたが、琥珀や旧勢力から背信罪で討たれる。

琥珀に命じられて指揮したのは翡翠。

死罪より重い記録抹消剤となり、宮廷のあらゆる公式文書から名前を消去される。

⁂大鷲《おおわし》  宮廷家令

真珠帝の総家令。

巫女秋沙の母違いの弟。

母親は、大戦で戦死した家令の雷鳥《らいちょう》。

天眼であり、優秀な神官でもあった。

下の世代の家令からの信頼も厚く、面倒見が良かった。

真珠帝が討たれた際に行方不明となった。

⌘琥珀《こはく》帝    女皇帝

白鷹と共に大戦中、前線を走り回った歴戦の女皇帝。

長兄から皇位を簒奪し、皇帝に就いた。

正室との間に真珠、継室との間に翡翠、父親は公表されないままだが翠玉(真鶴)を産んだ。

白鷹を伴い早くに離宮に移った。

革新派の真珠とぶつかり、背信罪で真実を訴追。

宮城に戻る事なく離宮で亡くなった。

§済 武衛《わたり ぶえい》 

宮廷軍閥 禁軍 近衛兵

女官長の揚羽(更紗)の夫。

元老院籍はないが、五百旗頭《いおきべ》家に次ぐ軍閥の名門。

藍晶の護衛官。

⁂仏法僧《ぶっぽうそう》  宮廷家令

元議員 本名 眞弓《まゆみ》如意《にょい》

若手の世襲上院議員だったが、皇太子の恋人に唆された先輩議員と共に総家令である孔雀を襲撃し返り討ちにされた事がきっかけで家令にスカウトされる。

家令には居ない常識人ぶりと爽やかさで、宮廷の女官と官吏に大人気。

海兵隊所属

神殿《オリュンポス》所属

⁂太蘭鳥《たいらんちょう》 宮廷家令


本名 棕櫚《しゅろ》麗《うらら》

孔雀の双子の娘。

アカデミーに入学予定。

生まれてから一度も同じ年頃の子供と団体生活をした事がないので非常にマイペース。

ほぼ雉鳩に育てられた。

後見人は、元皇女の翠玉。真鶴。

⁂金襴鳥《きんらんちょう》 宮廷家令


本名 棕櫚《しゅろ》朧《おぼろ》

孔雀の双子の娘。

アカデミーに入学予定。

生まれてから一度も同じ年頃の子供と団体生活をした事がないので非常にマイペース。

ほぼ雉鳩に育てられた。

後見人は、元皇女の翠玉。真鶴。

⁂菫金剛《すみれこんごう》  宮廷家令

孔雀の息子。

ほぼ大嘴《おおはし》が育てている。


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