2-9 青春物語

文字数 812文字

戦時中のこと。空襲警報が解除になっても、若かった我々は家に入らず土手に腰掛けて、束の間の対話を楽しんだものだった。忌まわしい戦時下にいても若い人たちは時代に合った青春を精一杯楽しもうとしていた。

結婚前の男女の事、お巡りさんが聞いたら、すぐに何処かへ連れて行かれそうな歌をわざと選んで唄ったような気がする。長い戦争の中にあっても、みんなが平和な日の来るのを願っていたのだと思う。

近所に俺より2才位年上の兄貴分がいた。「浜ちゃん」と呼ばれていたが、何ともキップの良い人であった。この人の妹の、絹ちゃんが当時俺の恋人だった?関係で、浜ちゃんとは仲が良かった。

敗戦後のまだあまり日が経っていなかった頃だが、町で発疹チフスが流行っていた。シラミから感染るので米軍がよく駅前などで、DDTという粉薬を散布していた。

その頃の事、祖父が訳の分からぬ病気にかかり、顔が倍ぐらいに膨れて大きくなってしまった。

私は医者に行き往診に来てくれるように頼んだが、駄目だと言う。

家で困っている所へ浜ちゃんが来て話を聞くなり、
「俺がその医者を連れて来てやる!」と医者に駆けて行った。

数10分経った時に、浜ちゃんが医者を連れて帰ってきた。

病名は「丹毒」だった。耳の後ろの傷口からバイ菌が入ったとの事だった。

注射数本とその後の4日の往診で全治したが、医者はチフスに感染るのがいやで、往診を全て断わっていたとの事だった。浜ちゃんのお陰で祖父は助かったのだった。

「馬には乗ってみよ。人には添うてみよ」と言うが、チンピラの親分として近所で一目置かれていた浜ちゃんを見直した。

この一件から、俺も浜ちゃんに付いて行く事にした。終戦後にぶらぶらしている俺を見かねてN鉄工所に入れてくれたのも浜ちゃんだった。

聞くところによると、浜ちゃんは江戸川区でラーメン店をやっているとの事。今度会いに行ってみようかと思うのである。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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